みさき、再び憑依される?
親友の実の言う通りに、最近、”人が変わった”と言われる生徒が増えているのが分かった。
さりげなく探ってみると、みな”暗く陰湿になった”との噂だった。それに物理部の奴らには邪な霊が憑依していると百合子が言うのだ。
「なあ、勇次郎。勇次郎達が僕から離れると、僕はどうなるんだい? 」
僕は日向流柔術の道場に向かいながら、勇次郎に尋ねた。
『ん? 分からん。死ぬことはないだろうな。難しい事を俺に聞いても無駄だ。どうなんだ? 百合子!? 』
やはり勇次郎には分からないらしい。勇次郎は百合子に助け船を求めた。
〔そうね……。守護霊と言うのは、文字通り守護する者。それがいなくなって守護を受けられないとしても特段に変化はないのが普通ね。生命力の強い人には守護霊が付いていない人も多いのよ。多分、守護する必要がないからだと思うわ。〕
「そうなんだ。じゃあ、僕は生命力が弱いのかい? 」
〔えっ? そんなことないわよ。どうしてそう思うの? 〕
「だって僕には四人もいるからさ。」
生命力の強い人には守護霊の必要がなくてということならば、四人も付いている僕は生命力が弱いのではないかと思ったのだ。
《そりゃ、居心地がいいからよ。私も勇次郎も、百合子さんも、教授も、龍君の傍が居心地がいいのよ。》
会話を聞いていた礼子が会話に入り込んでくる。
『うん。それは間違いないな。確かに居心地がいいぜ。』
「ふ~ん、そう言うものかな~。」
そんな会話をしていると道場についた。それから二時間ばかり、たっぷりと汗をかいて、へとへとになって帰るのだった。
最寄駅について家へ向かう道を歩いていると商店街に差し掛かったところで、自称霊感少女「羽田みさき」を見かけた。何やら暗い顔をして自転車を引きながら歩いている。何処か様子がおかしい。僕は声をかけてみた。
「みさきさん。塾の帰り? 」
「ん? ああ、龍君! 」
みさきは笑顔で、嬉しそうに答えた。暗い雰囲気に見えたのは気のせいだったのだろうか。そう僕が思った時、百合子がため息交じりに呟いた。
〔ふぅ~。この娘。また憑いてるわよ。〕
「え~っ!? 」
僕は思わず大きな声を出してしまった。
「ど、どうしたの? 」
みさきが驚いて、僕の顔を見た。
「いや、何でもないんだ。ちょっと忘れ物をしたのを思い出したんだ。」
僕は慌ててごまかした。
「へ~。龍君でも忘れ物するのね。珍しいね。」
「そ、そうでもないよ。僕は結構おっちょこちょいなんだ。」
「そうなの? そうは見えないけどなぁ。」
「と、ところでさ。最近、何か変わったことない? 」
「えっ? どうして? 」
「なんか、浮かない顔してたみたいだからさ。」
僕はさりげなく聞いてみた。
「ありがとう。私の事、気にしてくれて。」
みさきは嬉しそうに笑った。
「変わったことといえばね。家にある水晶が割れていたの。この間、私が少しおかしくなった時があったでしょ。その後に、おばあちゃんが買ってくれたものなんだ。」
少しおかしくなった時と言うのは、邪悪な霊に憑依された時の事を言っているのだろう。その時は、百合子のお陰で除霊する事が出来たんだ。
〔憑依霊の仕業ね。水晶は魂を浄化する作用があるのよ。おそらく水晶の存在が邪魔だったのだと思うわ。〕
百合子が耳打ちした。僕は小さく頷く。どうにかしてあげなければ、この間のように他の生徒にまで被害が及んでしまうかもしれない。僕はとりあえず家に呼んで、百合子や礼子に助けてもらおうと思った。でも、どうやって誘おうか。僕が考えているとみさきが言った。
「ね、龍君。そこのコンビニでアイス買わない? 塾で頭使ったら、甘い物が食べたくなるんだ~。」
そうか、みさきは塾帰りだったんだ。僕はひらめいた。
「うん。いいよ、食べよう。」
アイスを選ぶ時は甘い物が好きな礼子が、”あずきバー”をリクエストしてきたので、それを買った。歩きながら食べるのもなんなので、僕らは通り道にある近くの公園に行き、ベンチに腰掛けて食べたんだ。
「ねえ。みさきさん。明日、学校が終わったら家に来ない? みさきさんは英語得意だからさ、ちょっと教えてくれないかな。」
「ほんと! 行く! 絶対、行く! じゃあ、私に数学教えてね。は・か・せ! ふふふ。」
「そ、その”はかせ”って言うのはやめてくれよ。まぐれなんだからさ~。」
「ふふふ。まぐれで博士にはなれませんよ~。そういうところが龍君の良いところだよねっ。」
ともあれ、みさきを明日、家に呼びこむことは成功した。後の事は百合子達に任せようと思う。しかし、霊が憑きやすい体質って言うのも大変だなと感じたのだった。




