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小さな異変

 僕達は鈴木充を確認して、家に帰って来た。


 「礼子。嫌な予感って、具体的には何が起こるんだい? 」


 《それが分からないのよ。分からないけど、とても嫌な予感なの。予感というより龍君の身に何かが起こるのは間違いないのよ。それが何かは分からないの。》


 〔そう。あの教師からは特段霊波を感じなかったけれどねぇ。さっきもいったけれど、なりを潜めていられる霊だとしたら厄介だわよ。〕


 百合子も真剣に考え込んでいる。


 「さっき、あの先生は凄い目つきで僕を見ていたよ。」


 〔目を付けられたかもしれないわね。ますます厄介ね。龍君、もし私達が助けてあげられなくなってしまった時は例の神社に行きなさい。きっと力になってくれるはずだわ。〕


 百合子がそういうと僕は不安になった。あの神社とはみさきに取り憑いた霊を祓う時に霊水を貰った鋒鋩神社の事で、神官・次藤明さんにお世話になった。その次藤さんの話では、百合子はとても力がある霊能者だったと言っていた。その百合子が言うのだ。


 〈百合子君、私や勇次郎君にできる事はないのかね。龍君の身に何かが起こるというのであれば、私達の問題でもある。〉


 『おう、そうだぜ。何でも言ってくれ。』


 教授や勇次郎も僕の事を心配してくれている。


 〔そうね。今は何とも言えないけれど。何か頼むかもしれないから、その時はお願いするわ。〕


 百合子の言う通り、まだ何か起こった訳でもなく対処できない。それでも礼子が何かが起こると言っているのだ。礼子が言う以上、間違いなく何かが起こるのだろう。僕達は身を引き締めたのだった。




 それから三日後、夏休みが終わり、僕は学校に登校した。僕のクラスは大騒ぎだった。夏休み中に僕が国際数学サミットで表彰を受けたことが知れ渡っていたからだ。悪友・実が言いふらしたせいだった。

 僕はみんなの質問攻めを逃れるようにして教室を抜けだし、さりげなく鈴木充の様子を伺うが、別段、変わった感じはしなかった。百合子の言う通りになりを潜めているのであろうか。


 次の日、物理の授業の時だ。僕のクラスの物理担当教師が現れず、代わりに鈴木充がやって来た。


 「今日は田ノ元先生はお休みなので私が授業をする。」


 そう言って授業をはじめたのであった。僕はこれは接触するいい機会かもしれないと思った。どうせ目を付けられているのであれば、こちらから接触してやろう。そういえば、あれ以来、鈴木一郎は現れていない。どうかしたのだろうか。

 

 放課後、部活の前に質問があると鈴木充の元へ出向いて見た。一応、丁寧に教えてくれたけれど、目は生気がなく、無機質な感じだった。


 「君は霊感があるのかね? 」


 突然、充が言う。僕は少し慌ててしまった。


 「えっ? な、何ですか? 霊感とか無いと思いますけれど……。どうかしたんですか? 」


 「いや、別に何でもない。忘れてくれ。……さ、不明な点の疑問は解消したかな。」


 充は用事があるという風にそそくさと席を立って職員室を出て行った。




 〔確かに霊波を感じたわ。それに一つじゃないわ。幾つかの弱い霊波と、とても大きい霊波を感じる。私が今まで感じたことのないタイプの波動だった。それも一瞬よ、龍君に霊感の事を聞いた時だけで、すぐに霊波はとても深く潜ってしまったようね。〕


 「そ、そうなんだ。ねぇ、一郎さんはどうしたのさ? 」


 〔彼の波動も感じることはできたけれど、とても弱々しくなっていたわよ。〕


 「どういう事なの? 」


 〔ごめんなさい。まだ何とも言えないわ。ただ私達と相性が悪いような気がする。〕


 「私達って? 」


 〔あなたを守っている四人よ。今度、接触する時は十分気を付けてね。〕


 「うん。分かったよ。」


 僕は分かったと言ったものの、何をどの様に気を付ければ良いのか分からなかった。

 僕は部活の友達に充の事を聞いて見た。すると、最近、人が変わったというのである。以前は優しくて朗らかな先生だったのだが、この頃は冷たい感じがして笑う事もなくなったらしい。まるで別人のようだと言っていた。


 異変はそればかりではなかった。悪友というか親友というか、ともかく幼馴染でもある実が、その異変に気付いたのだった。


 「なあ、龍。最近、磯貝って変じゃないか? いつも上の空でさ。暗くなったと思わないか? 」


 磯貝という奴は、どちらかというと、ひょうきん者だった。言われてみれば最近は随分おとなしい。


 「そういえば、そうだな。家で何かあったんじゃないか? 」


 「そうかもな。でもな、ああいう奴、増えてるみたいだぜ。この間も他のクラスの奴と暗い顔で話してたよ。」


 僕はひょっとしたら鈴木充のクラスかもしれないと思って聞いた。彼の受け持ちは五組だ。


 「それは何組のやつだい? 」


 「ああ、隣りの二組さ。確か同じ物理部じゃなかったかな? 」


 僕は心臓が高鳴るのが分かった。


 「ぶ、物理部? 物理部って顧問は……。」


 「ん!? 鈴木だぜ、顧問は。」


 ああ、やっぱり、そうだったんだ。きっと何かが起こっているに違いないと確信した。



 それから何日が過ぎた頃、理科教室で爆発騒ぎがあった。窓ガラスが何枚かわれた程度だったけれど、放課後の部活の時間だ。僕は騒ぎを聞いてかけ付けてみると、火薬のにおいがした。物理部が教室を使っていたらしく磯貝や何人かの生徒達が爆発したらしい物体を眺めている。


 「な、何があったんだい? 」


 僕は磯貝に聞いた。


 「ん? 何でもないさ。単なる実験だよ。」


 磯貝はそう言って笑っていた。


 〔憑いてるわ。ここにいる生徒みんなに憑いてる。〕


 百合子が呟いた。


 すぐに教師達が集まって来たので僕はその場を離れたのだった。

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