2.とりあえず、謝罪
「あ~っ!」
目覚めた女はその瞬間に大声をあげた。
待機していたガイは慌てて女を入れていた牢へと急いだ。
「どうしたっ!!」
急いできたガイを見た女は涙を浮かべていた。
「すいません~っ。
私、またやっちゃったんですよね。
ご迷惑をおかけしてほんっとうにすいません~っ」
お酒がまだ少し残っているのか、女は所々呂律が回っていなかった。
「また、かどうかは私には分からんがな。
名前は?」
「…サラといいます」
すごい勢いでやってきたガイの鋭い瞳に怯えながら答えた。
「旅券は?」
そう言われて、サラは側に置かれていた荷物から素直に取り出し、鉄格子越しにそれを渡した。
「問い合わせる。少しかりるぞ」
「はい」
またと言うだけあって、こういう事件には慣れっこなのだろう。すんなりとガイの言葉に従った。
ガイは旅券を持って、事務室へと戻っていった。
「どうでした?魔術師は」
昨日から案内役としてひっついてきている兵士は、夜中に起こされた事で多少眠そうに聞いてきた。
「どうやら、酒癖が悪いだけらしい。
今から問い合わせる」
旅券をひらひらしながら、宝珠へと向かう。
要所にあるこの宝珠は、連絡手段に主に使われる。また、それ以外にも各データバンクへのアクセスも兼ねている。
ガイがその宝珠にそっと手をかざし、ポンポンと二回叩くと、手のひら大の妖精が出現した。
「御用を承ります」
「この旅券の持ち主について調べてくれ」
そう言うと、「畏まりました」といって旅券を受け取って妖精はすっと消えた。
30分程で、妖精は戻ってきた。
「お待たせいたしました。
調査結果を報告いたします。
この旅券は本物で偽造の疑いはありません。
また盗難届けも出ていません。
旅券の持ち主、サラ殿は七級魔術師で、北の国ラリバリエ魔法学院の出身です。
所属は南の太陽です。
以上ですが、他にも何かお調べ致しますか?」
「いや、十分だ。ご苦労様」
そう返事をすると、ガイに旅券を返してにっこりと笑ってその姿を消した。
「釈放だな」
ガイはそう言った。
酒場での事件の詳細は酒場の主人や、その周りの人にも聞いたが、どうやら絡んでいったのは髭の男の方だということは明白だし、酒場ではよくある揉め事だ。それほど大事にするほどのことでもないだろうという判断だった。
「しかし、ガイ様、術錠はどう致しましょう」
兵士に言われて、ガイは少し悩んだ。
サラにはめた術錠は都市それぞれに特有の解除法がある。魔力を封じ込める目的で作られたそれは、その都市に配備された魔術師か、それ以上の位にある者にしか外せないのだ。
「仕方ない。戻ってくるまで私が面倒を見る。
この都市の魔術師は確かリンエだったな。彼はいつ帰ってくる?」
「明後日の昼頃かと…」
「そうか。
それまで牢――は少し可哀想だな。」
ガイはサラの旅券を持って牢まで戻った。
近づいてくる足音に、恐縮しきった表情でサラはガイから目をそらしていた。
「旅券だ」
そう言って格子越しにそれを渡した。
そして持ってきた鍵でサラの牢の鍵をあけた。
「出ろ」
そう言われた事に意外だったのか、サラはおそるおそる牢を出た。
先ほどの酔いもすっかりさめたのか、先ほどの騒がしい様子は微塵も見られない。
ガイは視線だけでサラに付いてくるように促す。
サラは素直に従い、後ろを金魚の糞よろしくついていく。
牢の中は少し複雑な作りになっているようで、わかれ道や階段が随所にみられた。
点在する牢の中に人の気配はほとんどなく、広さの割に牢自体の数もそれほど多くはなかった。
数分経ったころ、厳つい顔の男に無言で付いていくのに耐えきれなくなったサラは、
「あの、今からどちらへ…?」
と、声をあげた。
ガイはちらりと後ろに付いてくるサラを見て、また正面を向いて歩きだしてから答えた。
「もう釈放なんだが、その術錠を外せる者がいなくてな。
すまないが明後日の昼までは外れん。
そのままでは何かと不自由だろうから、それまで私の宿舎にいなさい」
「はい。ご迷惑をおかけしてすいません。
あの、それで、処分は?」
謝罪と、そして一番聞きたかった処分についてやっと尋ねることができた。
「ああ、今回は特にない」
ガイの言葉に、サラは困惑た。
「どうした。何か気がかりなことでもあるのか?」
「いえ、その、記憶がないものですから、自分が何をやってしまったのかいまいち…」
サラが言いにくそうにそう言うと、ガイは声をあげて笑った。
「被害は酒場の半壊だ。
それは魔術師が戻ってきたら直してもらう。その他の被害は相手の男が悪いことが明白だから、そいつに処理させる。まあ、それほど大した事じゃないさ」
「本当に申し訳ありません」
急に笑ったガイに驚きつつも、自分の仕出かしたことを認識してしゅんとなってしまっているサラをみてガイはにやりとした。
久しぶりに面白い女だなと心の中で思い、途端に興味がわいてきた。
「よくあるのか?今回のようなことが」
「はい。恥ずかしながら…。
いつも、その度にお酒をやめようと思うのですが、ついつい飲みすぎてしまって。
今回もこのカンザス王国の地酒はおいしいと言う評判を聞いて参りましたので、つい飲みすぎてしまって」
サラの返答に、ガイは同調するように頷いた。
「今年の酒は特にいい出来だと聞いているからな。
その気持ちも分らんでもないな。
まあ、とりあえず行こうか。太陽の下を術錠をしたまま歩きたくはないだろう」
そういうと、いつのまにか地上へ続く扉の前まで来ていたガイはサラを伴って夜明けの町へ出て、宿舎へと向かった。
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