山間山菜リード村 捜査・検証編1
村図書館は、いわゆる普通の民家と変わらない外見をしていた。ただ三階建てらしく、他より少し縦長だ。壁には育てているのだろうか、薄桃色の小花を咲かせた蔦が蔓延っていた。
ドアを何度かノックすると、中からチリンと涼やかな音が聞こえた。次いでそれを掻き消してしまうような、慌ただしい足音。
「い、いらっしゃいませ。こちらはリード村の村図書館です……」
息を切らせ小さな声とともに現れたのは、ケリュンよりも頭一つ分背の低い少女だった。珍しいアクセサリーである眼鏡をかけているため、年齢がよく分からない。年下に見えるが、これのおかげで同い年に見えなくもない。
「えーっと、こんにちは。調べたいことがあって、食堂の人に紹介されて来たんだけど……大丈夫か?」
「は、はい、すいません。つい、急いじゃって、その……」
恥ずかしげに顔を赤らめ、少女はうつむいた。
そして幾度か深呼吸して落ち着くと、ケリュンを中に迎えいれてくれた。
「あたしは村図書館の司書、エミネルです」
「俺は旅人のケリュン。今日この村に着いたばっかりなんだ」
廊下を進み、階段を上りながら自己紹介をする。
エミネルはこの図書館内の説明や歴史を、静かにとつとつと語った。
二階と三階に本があるということ。総数は町の図書館ほど多くないが、ジャンルは幅広いということ。本収集という趣味が高じた結果、村長や村人らに勧められ、この三階建ての建物を借りたこと。
ケリュンはふんふんと相槌を打って聞いていた。
が、それよりも。
ケリュンは彼女の、ゆるく二つに結われた黒色の髪に目をやった。彼女――エミネルが歩くたび、この縛られたくせ毛がふわっふわ揺れるのだが、それが気になってしかたないのだ。
「……あの、ケリュンさんは何を調べに来たんですか?」
「えっ、あ、ここに出るっていう魔物の情報が欲しくて」
挙動不審なケリュンに気付くこともなく、エミネルは「うう、」と顔を曇らせた。
「雇ってた人が殺されたんですよね、確か。前、会ったことがあるんですけど、すごく背の高い、たくましい方で……」
そして小声で「怖いです」と呟く彼女に、ケリュンはなんと言ったらいいのか分からなかった。とにかく落ち着かせてやろうと思い、怯える小動物のような彼女の頭に、軽く手を置いた。
「ケリュンさ――」
「大丈夫。俺はそいつを、退治しに来たんだ」
とりあえず、ふかふかだった。
頬を赤くしたエミネルは慌てて身を引き、そこから一度ケリュンを全身眺め、さっと顔を蒼褪めさせた。考えていることがありありと見て取れる。簡単にまとめると、「無理でしょう」、ということだ。
「気持ちは分かるけどさ……」
そんなに頼りないだろうか。
確かに人より小柄だし、髪も肩につきそうなほど長い。顔も童顔で、成人したようには見えないと言われることもしょっちゅうだ。日焼けしやすい体質でもないため、生白い、戦えない男に見えるかもしれないが……。
「す、すいません。あたしったら失礼なことを」
縮こまるエミネルに、慌てて「気にしてないって」と手をひらひら振ってみせる。
まあ村を守ってきたらしい屈強な傭兵と比べたら、貧弱に見られてもしかたない。
そう自分を慰めつつ、ケリュンは、帰ったらスゥに切ってもらおうかな、と癖でぴょんぴょん跳ねている後ろ髪をつまんだ。