guerra 戦争と痛み
「……ア、レク…?」
(どうして…アレクはあの時私を庇って…)
「『死んだはずじゃ?』ってか?」
自分の思っていたことを言い当てられ、驚き固まるリィシャ。
「生きていて、今ここに居る。―――――――こんな言い訳じゃダメか?」
とっておきのイタズラをした子供のように笑うアレク。
「さて、ここで長話もなんだしな」
そう言うと、振り返り大臣たちを見据えるアレク。
「俺の可愛い幼馴染に随分なことしてくれたみてぇだな?」
「ふっ、その娘が悪いのですよ。早いこと秘宝の在りかを言えばいいものを…。口を閉ざすから、そのような痛い目に遭うのですよ」
リィシャの腕の傷を一瞥し、鼻で笑う大臣。
「大体、こんな平和ボケしたこんな国にAZなんて、釣り合わなかったんですよ。国力に対して兵器の力の方が勝っていた。その結果が、今の状態ですよ」
リィシャは何も言わない。
「こんな国では、国民もさぞ退屈だったでしょうね。―――――――――そんな国民なんて、愚図ですよ。この国の現状に気付かず、平和ボケした頭で行動して…人間の端にも置きた」
大臣が言い終わる前に、リィシャの投げたクナイが大臣の眉間に刺さった。
「この国の現実を言うのは、勝手にしなさい。事実だから、否定しない。けど、国民を悪く言うのだけは、絶対に許さない!!」
リィシャの突然の行動に驚く連れの男たち。
「俺もリィシャに同意だな」
そう短く告げると、男たちの額を持っていた二丁の拳銃で撃ち抜いた。
男たちは、音もなく崩れ去る。
静かになった城内に、外の戦場の音が聞こえる。
「馬鹿、お前は手を汚さなくてよかったのに…」
リィシャが俯きながら、アレクに聞こえるかどうか分からないような小さな声で呟いた。
「いやいや…その言葉、そっくりそのまま返すぞ?仮にも一国の姫とあろう者が…」
すまない、そう言うとアレクがリィシャの手を取り、その甲に唇を落とした。
「俺は、お前の物だ。それは…それだけは、昔も、今も、これからも、ずっと変わらない」
「…恥ずかしいことを、そんな顔で言うな、馬鹿」
ふっ、と耳元で声がすることに違和感を覚えると、リィシャはアレクの腕の中にいた。
「おい…っ」
「お前、クナイなんか何処に仕込んでいたんだ?」
「…いつも持ち歩いている。スカートの中に仕込んでいる。チェリアルがそうしとけ、と言っていたからな…」
アレクはリィシャを横抱きにし、刺された腕の部分の服を破る。
そして、そこにも唇を落とした。
「アレシリア!!」
「やっと真名で呼んだな」
「そういう問題ではない!離せ!!」
リィシャがアレクの腕から逃れようと、必死に身をよじる。
「――――――久しぶりに会えたんだ…そんな簡単に離すわけないだろう?」
耳にアレクの吐息がかかり、身を小さくするリィシャ。
―――――――ドカッ
鈍い音と共に、リィシャはアレクの腕の中から開放された。
「ひどっ」
「口で言ってやったのに、聞かなかったお前が悪い」
一刀両断されるアレク。
(返す言葉がない…)
「…みなは、無事に避難できただろうか……?」
そう言うリィシャの腕の出血は、未だに止まっておらず、いっこうに止まる気配がない。
「まずは自分の心配をしろよ…」
アレクが苦笑交じりに呟く。
リィシャは言葉の意味が分かっていないのか、首を傾げている。
「ったく。――――――――相変わらず、自分のことには無頓着だな」
そう言うと、アレクは自分の服の一部を千切り、リィシャの腕の傷口にきつく巻いた。
「っうぅ…」
「我慢しろ。止血しねぇと、多量出血が原因で死ぬぞ?」
「…承知している」
「いいや。お前は何も分かっていない」
「何もとは失」
失礼な、と言い終わる前に敵兵に追われているうちに乱れた服の隙間から、アレクの手が入り込んできた。
「おいっ!?」
さすがに声を荒げるリィシャ。
「お前はもう少し自覚すべきだ。自分がどういう状態にあるか、どういうことをしているのか、を」
そして、露になっているリィシャの胸元にアレクの唇が落ちた。
「痛っ、い…」
リィシャの声を無視して、アレクの唇はさらに耳の裏へと移動する。
リィシャは、身を捩ってそれをかわそうするが、さきほど服の中に侵入してきたアレクの手により、それを阻まれる。
「俺はお前の幼馴染であり、従者でもあるが、その前に一人の男だぞ?―――――――お前がそんな格好でいると、襲いたくもなる」
アレクは自分の唇をリィシャのそれに軽くあわせた。
「大体、お前はいつもいつも…」
アレクの説教が始まった。
(これはしばらく終わらないだろうな…)
リィシャは心の中で、遠い目をした。
そんな目をしているうちに、目の前が少し明るくなった。
「!!――――――包帯を勝手に取るな!!」
「嫌だね。――――――説教は、まだ終わってない」
アレクは器用にも、説教をしながらリィシャのいたるところに触れまくる。
「おいっ!いい加減に」
続きを言わせまい、とアレクの唇が再びリィシャのそれを塞ぐ。
今度は強く、深く。
「ちょっ……、ま……」
リィシャの口の中で暴れるアレクが、リィシャの息を塞ぐ。
「分かったら、俺の前でそんな格好をしないことだな」
満面の笑みで言うアレク。
(コイツ…悪魔だ…!!)
涙目で訴えるようにアレクを見上げる。
「ほらみろ。言ったそばからやる…。お前は、もう少し神経を張り巡らせろ」
「?」
(無自覚は、罪だ)
苦笑しながらアレクは再びリィシャに顔を近づけ、口付けしよう――――
としたところで、アレクの通信機が鳴った。
『アレク?』
「チッ…。―――――――こちら、アレク・サウィルリー」
『よかった、やっと繋がった』
「用件は?」
『GCの第8艦隊がそっちに向かっているとの情報が入ったわ』
「GCが?」
「現在この国は、GCに危険戦力保持国と認定されている」
「それ、いつからだ?」
「私の耳には、30分ほど前に入っていた」
『姫の言う通りよ。30分ほど前に公式に発表しているわ』
「なんで俺にくれなかったんだよ、その情報」
『繋がらなかったのよ』
「そうかい」
アレクは面倒くさそうに頭をかく。
『すぐさま姫を連れて撤退を』
「了解」
そう告げると、通信を切った。
「ということだ。撤収するぞ。――――――ここに残る、なんて我がまま…言わねぇよな?」
アレクが殺気とも似た視線をおくってくる。
目が見えなくても、肌に突き刺さるような視線だ。
「…『言わないよな?』ではなく、言わせないの間違いだろう?」
「理解が早くて助かるね」
「そりゃどーも」
「ほら、行くぞ」
アレクが座り込んだままのリィシャに手を差し出す。
「…」
(私はこの手を取って良いのだろうか…?)
リィシャに不安の波が打ち寄せる。
(アレクは私といたから、戦争に巻き込まれて…)
手を取ろうとせず、俯いたリィシャを不審に思ったアレクが、強引にその腕をつかみ横抱きにした。
「うわっ」
「お前は余計なことを考えなくて良いんだよ」
アレクが心底不機嫌そうな声音で言う。
「俺はお前のことが好きだからそばにいる。ただ、それだけだ」
それ以外に理由が必要か?、とアレクがリィシャの耳元で呟く。
「いや…不用だ」
「なら、迷う必要はないな?」
リィシャは無言で頷く。
「行くぞ」
「あぁ。――――――――――ちなみに、自爆装置作動まであと10分だ」
「…は?」
アレクの口から間抜けな声が出る。
「国家機密保持のため、研究施設やらAZやらなんやら、すべて自爆装置が設定してある」
「それがなんであと10分しかねぇんだよ?」
「元は1時間設定してあった。設定した時間から50分経っただけだ」
静かに現実を言うリィシャ。
「~!!」
「どうした?」
「お前、あとでどうなっても知らねぇからな!!!」
そう言うと、アレクは全速力で来た道を戻っていった。
お久しぶりです。
更新が大変遅くなってしまい、すみません!
次はもう少し早く更新できるように、頑張ります。