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昔からの付き合いに特別な感情はあるわけがない



「あ……そこ」

「ここか?」

「あん、違う、もっと下……そうそこ」

「……いくぞ。」

「あ……うまい、いい、もうちょっと」

「入れ!」


 滑稽な機械音を出してUFOの形をした力のないフックは、目的の箱を一旦は掴んだものの、穴に落とす前に手放した。

「だぁ! もうやめだ」俺はイライラしていた。


 仕事が終わって、帰りに山田とビールで労をねぎらおうとビアガーデンに向かっている途中で、野島から連絡があり、一緒に行くと言うので、野島と合流し、そしてなぜかゲームセンターに捕まっていた

「ホント、岩さんは下手だなぁ」

「ね~、もう10回は失敗してるよ」

 横で見ていた山田と野島はそれぞれ某大人気海賊マンガのキャラクターストラップが入った箱を持っている。山田はたった数回でそれをゲットしていた。

「うるせぇな、だいたい俺はこんなもの欲しくは無いんだよ。それをお前があれがいいって言うから頑張ってるんだろうが。文句があるなら自分でやれ。一回ソレ取ってやったろう? 我慢しろ、我慢」俺は苛立ち紛れに野島が抱えている主人公の絵が描かれた箱を指差した。

「だって、あたしあっちがいいんだもん」

 野島はどうやら帽子をかぶったトナカイのストラップが欲しかったようだ。

「だめだ。これ以上やったら金がなくなる。もういくぞ。俺はビールが飲みたい」

「えぇ~? ケチ~」

 ぐずる野島を無視して山田を連れてゲームセンターを出て行く。ぶつぶつ文句を言いながらも結局野島もついてきた。



「カンパーイ」

 午後8時を過ぎたビアガーデンは仕事帰りのサラリーマンでごった返していたが、のどを流れるビールののど越しに、周りの喧騒もまるで気にならなかった。

「あ~……うまい」

「やっぱり夏はビールだね~」

 ジョッキを一気に半分減らして野島は、あははと笑った。

「野島さんって、結構飲めるんですね」

「山田くんとは高校以来会ってないもんね。あたしこう見えて結構酒豪なんだよ」

「そうなんだよ、こないだ楽しみに取っておいたワインをこいつ一人で開けちまいやがって」

 俺はワインラックに入れておいた、あの高いワインが、仕事から帰ってきたときには空になっていた事件を思い出した。

 野島はけろっとした顔で「そんなに高いワインだったの? どうりでおいしいと思った」と悪びれもなく言いのけた。

おかげで怒る気もうせた。と野島を睨む。

「だから、謝ったじゃん」

「お前が、いつ、謝った?」

俺と野島のやり取りを見ていた山田がニコニコとほほ笑むのが横目に見えた。

「……なんだよ、ニヤニヤしやがって」

「いや、2人とも、昔と全然変わってないな、と思ってさ。そうやっていつも喧嘩してるのかと思えば、すぐに笑って話してたよね」

「高校の頃は、そうだね。仲良かったよね、岩崎君」

「ん? ああ、そうかもな」

 昔を思い出す。と言っても高校時代なんて大した思い出もなければ、まだ女を知らない頃だったから、いつも女に飢えていた記憶しかない。それでも野島とはその頃から友達として付き合っていた。そう考えれば、付き合いだけは長いな。

「山田くんは変わったよね。あの頃ってさ、岩崎君にいつもくっついてた割に、女の子と話すのは苦手だったもんね」

「ああ、そうですね」苦い思い出です、と山田は苦しそうに笑った。

「でも、いいですね。昔からの友達で、こうしてまた再開して仲良くなるって」

「はぁ? お前良く考えてみろよ。いきなり人の家に転がり込んでくるような奴だぞ、こいつは」と野島を指差す。

「でも、嫌いじゃないんだよね。岩さんも」

山田は俺の顔を覗き込むように顔を近づけた。野島も便乗して、覗きこむ。

「なんだよ、バカじゃねぇのお前ら」

俺はなぜか唐突に襲ってきた焦りをビールと一緒に流し込んだ。この汗の意味がわからん。



 公園内の遊歩道は風が木の葉を揺すり、心地よい音を響かせていた。

明日も仕事だから、と早めにビアガーデンを後にした俺たちは、駅で山田と別れ、近道の為、公園内を通って帰ることにした。

 程よくほてった体に風が心地よい。あの短時間にジョッキ4杯は飲みすぎたな、と少々後悔しながら、遊歩道をゆっくり歩いていると、隣を歩いていた野島が「ねぇ」と声をかけてきた。

「さっきの山田くんの話、本当なの?」

「あん? 何の話?」さっきの会話を思い出しながら訊き返すと

「だから」と言って野島は少し言いづらそうにした後「嫌いじゃないって話だよ」とぶっきらぼうに言った。

「ああ……あれね」


 この時何も考えずに素の言葉が出たのは、酒のせいで、多少気分が良くなってた上に、風が気持ち良かったせいだと思う。とにかく俺は何も考えずに

「ああ、好きだよ。お前のこと」と言っていた。

 野島は何も言わずに、まっすぐ前を見て歩いていたが、ちらっと覗いた顔は赤くなっていた。アレは酒のせいか? それとも照れてるのか?

「まさか、あの野島があれくらいで照れるかよ」と頭の中の俺は笑っていたが。

「昔からの友達だからな」と現実の俺はすかさず訂正を加えていた。

 野島は、あはは、と笑って「だよねぇ。あたしも好きだよ、岩崎君のこと」と言った。





続く

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