独り -1
2月初旬。今年は例年より寒い。雪が降ってくれれば、寒さもイベント気分になったかもしれないが、ただただ寒いばかり。まぁ、降ったら交通機関の麻痺で困るのだが。
そんな冬の最中、真知子が体調がすぐれない。特に食欲を失っている。僕が心配するのを、真知子は少し嫌がっているようにも見えた。体調不良の原因に心当たりがあるのかもしれない。女性特有の、男には言いづらいことなのかもしれない。
数日後、話があると言われてリビングのソファーに座る。何か重い病気でも見つかったのだろうかと不安になる。真知子はゆっくりと大きく息を吸い、少し間をとって話始めた。
「あのね、わたし…、妊娠したみたいなの」
言い終わる前に僕は、前のめりに立ち上がる。
「ほんとうか、やった。ありがとう真知子。俺、今まで以上に頑張るよ」
子供が出来たことへの喜び、今後への期待、子供の名前をどうするかなど、僕は矢継ぎ早に言葉が飛び出す。真知子は何も言わず微笑んでいた。
念願だった真知子の妊娠。真知子だって嬉しいはずなのに、どこかはかなげな表情をすることが多くなったように感じる。それは、男には分かることのない、『母』の感覚かもしれいない。気になっているが、そんな様子も日に日に薄れていった。
日に日に予定日が近づく。住み替えた2LDKのアパートの一室は、互いの両親や友人から頂いたベビー用品が増えていく。夏が終わり、過ごしやすい秋になる。涼しさが寒さに変わり始めた頃、真知子は元気な男の子を産んだ。
真知子の強い希望で、『真実』と名付けた。僕は、『まちこ』と『まこと』は一文字違いは分かりづらいと主張したが、真知子は譲らなかった。それに、出産してからの真知子は何かを決心したように見えた。これが、母は強しということなのかもしれない。
今年、僕はクリスマスに休暇を取った。初めての、3人で迎える家族のクリスマス。幸せなイブの夜を過ごす為に。しかし、クリスマス前からしばらく2人と別れることになる。
世の中にはびこる感染症対策として、真知子が真実を連れて実家に帰省することになった。
翌日、真知子の両親が迎えにきた。生まれて間もない初孫と一緒に暮らせることが嬉しいのだろう。車で4時間かけて来た疲れが伺えないほど、嬉しそうだった。
仕事仲間は「久しぶりの独身気分を満喫できるな」と何度も言う。確かに、解放された感覚はある。しかし、もともとテレビを見る癖もないし、自粛モードで遊び歩くことも出来ない。ただただ退屈な日々となった。
真知子が真実と帰省することを決める前に、僕は年末年始の休暇の申請を済ませていたことを今更後悔した。




