決別
みちゃこは、お腹の中の子供の名前を、モカトにすると決めた。夫は違う名前を考えていたようだが譲らない。
「引っ越しは負担がかかるから、産まれてしばらくたってからにしなさい」
そんな周囲の言葉を押しきって引っ越した。このアパートでは手狭になるからと。
引っ越しが終わったその日、モカトの連絡先を削除した。流星や奈津子、瑞希の連絡先も。スマホを買い換え番号もアカウントも変えた。これで二度と、モカトに会うことは無い。
子供を、モカトと一緒に育てることも考えた。今はモカトを愛してる。でも、モカトは30歳のフリーアルバイター。先々、金銭のことや子育てのことで、モカトをうっとうしくなるであろうと想像できた。
秋になり、みちゃこは男の子を産んだ。
「目元はあなたにそっくりよ」
そう言ったら、夫は恵比寿様のような顔になって喜んでいた。「モカトはモカト似だ」そんな本心をみちゃこが言うことは無い。
年内には実家に帰る。その口実を考えていたら、今年も感染症が蔓延した。ウィルスは、産まれたばかりのモカトにとって脅威だったけど、実家に帰省する理由としてはうってつけ。
感染症が落ち着いた後どうなるのか。事実を明かせば、温厚な夫といえどさすがに許してはくれないだろう。不倫相手の子供を産んだ不貞娘を両親は許してくれるのか。
ただ、誰から許してもらえなくともモカトと2人で生きていく覚悟は出来ていた。
【エピローグ】
ねぇ、あなた。この小説、読んでるよね?
私の洋服ダンス、1番上を開けて下さい。
封筒が入っています。
その中の用紙に、私の記入すべき項目は全て書き込み、捺印してあります。
あなたの欄を書いて押印し、役所へ届けてもかまいません。
真実を知りつつ破いて捨てても、見なかったことにしてもかまいません。
実はこの小説を読んでいないなら、私は全てを墓の中まで持っていきます。
全てはあなたに一任する。
最後まで、私は最低ですね。
~fine~
読み終えて、トップ画面に戻る。
針井歩太の感想書き込みを開く。
どこにいるの?
僕が迎えにいくから、幸せにするから、教えてよ。
書き込みを読んで半分呆れながら、僕は立ち上がる。
寝室に入る。
心臓が高鳴っていることを感じる。
真知子の洋服ダンス、1番上の引き出しを引く。
意外と重く、手がするりと滑ってしまった。
信じられないほどの手汗に気付く。
シャツの裾で汗を拭く。
再び引き出しを引く。
擦れる音と共にゆっくり開く。
思わず怖くて目を閉じてしまった。
不安の鎖を決意でほどく。
ゆっくりと目を開ける。
白い封筒がある。
中の紙を引き出して開くと
「嘘だよー 笑」
そう書かれた紙が入っていることを期待する。
その紙にかかれているのは…
~ Fine ~




