薄皮一枚 -2
食べるものが終わり、いよいよすることがなくなった二人。幼稚園児でもまだ起きている時間にも関わらず、2人はベッドへ行く。1度は意気消沈していた僕だったが、再び怒りが込み上げる。
モカトはここに来て2時間足らずだが、我慢は限界だった。込み上げる欲望に任せてみちゃこを激しく求め、早々に挿入する。
「モカト、ちょっと」
みちゃこは慌てて、抗うようにモカトの両肩を押す。
「ナマはダメよ…、あ…」
ふざけんな、なにやってんだ
「ダメダメ、ん…」
最初は抵抗していたみちゃこだったが、すぐに両手と両足をモカトの後ろに回し、手足で抱き締めるように力を込めた。
真知子、なにやってんだ。
モカトとみちゃこが薄皮一枚隔てることなくは、深夜まで何度も愛し合い、求め合い、与え合うところも、何度も見せつけられた。
スマホのアラームでみちゃこは目を覚ます。隣で寝息をたてるモカトの横顔を眺めるて幸福を感じる。その幸福は、お腹の中からも感じている。夫とでは感じたことの無い幸福感。根拠は無い。科学的に言えば、一晩でわかるはずもないのだろう。でもなんとなく感じる。モカトの生命が自分のお腹の中に宿った。そんな気がした。
このままずっと寝顔を見つめていたいが、そうも出来ない。モカトを起こし、朝食をとってからアパートの前まで見送る。
そこから目まぐるしく動く。普段使っていない高級食器を洗い、拭いて片付け。ワインの瓶やビールの缶を袋にいれて集積所へ。シーツを洗い、乾燥させて布団にセット。寝室の匂い消し。とにかく、夫が帰るまでに、2人でいた痕跡を全て消さなくてはならない。
そんな気持ちでバタバタと動いていたら、夫の為にこんなことをしているのがバカらしくなった。みちゃこは、その当て付けのようにツリーなども全て片付けた。
当て付けってなんだよ。
夫が帰ってきた頃には、みちゃこは、布団に入っていた。遅くまでしていたことと、早くに起きてしていたこと。その疲労感が全身に巻き付いている。それでもお腹の中にはまだ暖かい幸福感が残っている。このままにしていたいけど、そうもいかなかった。
このまま命を宿したら全てが明るみに出る。好都合なことに、モカトと夫は同じ血液型。
ちょっと、それって、
ベッドに入った夫を、みちゃこが求める。身も心も求めていないのに、イヤな気持ちを振り払いながら必死に求める。幸せに満たされていたお腹の中を、夫に汚される気分。もうみちゃこは、夫に嫌悪感しかなくなってしまった。
クソ。
完全に気持ちが切れてしまった。呆然としながら冷たくなったコーヒーカップに手を伸ばす。ゆっくり口に当てたが、すでにコーヒーば空だった。
「ふざけんじゃねーよ」
怒鳴り声と共に投げつけたカップは、テレビ台に当たり砕けて落ちた。
夜勤明けのあの日、1年ぶりのことに興奮し幸せに浸ったのは僕だけだった。真知子は、イヤだったのだと知る。勘違いであっては欲しい。これはフィクションであって欲しい。
しかし、気付いてしまった。もう1つ勘違いしていたことに。
真知子は、産まれたばかりの息子の名前を、小説の不倫相手の名前にしたんじゃない。不倫相手の名前を、息子の名前にしたということに。




