薄皮一枚 -1
大きなクリスマスツリーの飾り付けに夢中になっている間に、15時を過ぎていた。夫はいつの間にかいない。いや、「いってらっしゃい」と言った気がしないでもない。完成したクリスマスツリーを満足げに眺めるが、それに浸っている暇はない。
真新しいテーブルクロスを敷き、真ん中にキャンドルを置く。100均で買ったクリスマスグッズを壁に飾り付ける。レッグチキンとケーキは出来ているので、パスタとサラダを急いで作る。完了したのは17時前。モカトが来るまであと一時間くらい。
→ 早くみちゃこに会いたいから、もう行っていい?
来るな。
← いいよー、私もモカトに早く会いたい
→ わかったーすぐ行くね
ピンポーン。
インターホンが鳴るのと同時にスマホも鳴った。
→ もう来てました
← 待って、まだメイクしてない
→ みちゃこは素っぴんもかわいいよ
← もう
スマホを持ったまま、玄関へ出迎える。モカトが入ってきて、ドアが完全に閉まる前に、既に抱擁とキスが始まった。
真知子から離れろ。
リビングの前でモカトを待たせ、みちゃこはカーテンを閉める。電飾をオンにしてキャンドルに火を灯す。照明を落とすと、引き戸を開けてモカトを招き入れる。
モカトは、リビングへ入るなり目を疑った。日本の狭いアパートには不似合いな大きなツリー。色とりどりの瞬くLED。キャンドルの炎は、エアコンの風に揺れ、幻想的な雰囲気を作る。
「メリークリスマス、モカト」
2人並んでソファに座る。食事には時間が早い。幻想的な光の中で再び抱き合う。そして、長く、強く、深く、熱く唇を合わせる。モカトはそのままみちゃこをソファの背もたれに押し付け、ブラウスのボタンに手をかける。
「まだダメ、今日はもう少しロマンチックにしたいの」
そう言ったみちゃこの頬がいつもより赤く見えたのは、キャンドルのせいなのかモカトには分からなかった。
結局、少し早いがワインで乾杯をする。モカトがポケットからラッピングされた小さな袋を取り出した。みちゃこへのクリスマスプレゼント。中にはハートのピアス。満面の笑顔で受けとると、早速耳につける。100均のピアスとラッピングだが、みちゃこにとっては夫からもらったブランド品のネックレスより価値がある。
なんだと。
続いてみちゃこもプレゼントを渡す。包装紙にくるまれた小さな箱。中にはリングが2つ。ペアリング。みちゃこは左手をモカトに差し出す。
「つけて」
ダメだ、絶対ダメだ。
スマホに向かって叫んでも、小説の中には届かない。
モカトはぎこちない手付きで、みちゃこの薬指にリングをはめる。みちゃこは、笑顔の横で愛の印をつけた左手をヒラヒラさせる。続いて、みちゃこがモカトに指輪をはめる。互いに見つめ合い、再びキスをした。
その後、ことあるごとにキスを見せつけられ、僕は言葉も気力も失った。




