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すれすれの密会 -1

 長く童貞だった男ほど、女を知ったとたんに自信を身に着ける。それはモカトも同じだった。いや、同じなのではないかとう不安が、みちゃこにそう感じさせた。自信をつけたモカトが、若い女性に乗り換えるのが怖かった。

 レストランでの食事、落ち着いたバー。少し高いグレードのホテル。年上であることや既婚者であるという現実をカバーする為に、『大人の女性』を演出する。しかしそれにはお金がかかる。それなのに、会う回数は増やしたくてたまらない。


 みちゃこの『大人な女性』という演出は、高級感から家庭的へとシフトさせる。夫が夜勤の日はモカトを家に呼び、得意料理のカレーや肉じゃがを振る舞う。ビールの買い置きは、モカトが好きなドライビールへ変えた。モカトが来るとなれば、苦手な掃除も苦にならない。




 『みちゃこ』の設定がリアル過ぎて、押し込めようとしていた不安が抑えきれない。いっその事、読むのをやめてしまえばと何度も思う。


「クリスマスイブは一緒に過ごしたい」

 モカトの希望はみちゃこの希望と一致している。好都合にも、こういう季節の一斉イベントには、夫が夜勤になること多い。今年のクリスマスイブもそうなってくれた。せっかくの、モカトとのクリスマス。やっぱり大きなクリスマスツリーを飾りたい。プレゼントは一人で買いにいけば済むが、ツリーとなると夫に隠すことは出来ない。ここは、下手に隠すよりも、夫公認で大きなツリーを買ってしまおうと考えた。


← 今日、ホームセンターにクリスマスツリーを買いに行くよ。モカトとのイブ、楽しみだな

→ みちゃこの家からなら、もしかしてアメリ?

← ホームセンターコーホクだよ

→ えー、アメリにしてよ。午後から仕事だから近いアメリなら少し会えるよ

← ごめん、今日は旦那が一緒だから


 その後、モカトから返信は来ない。モカトに対し、旦那のことは出来るだけ話題に出したくなかった。すごく悲しそうな顔をするから。SNSの向こうに、あの悲しそうな表情が浮かんで、いてもたってもいれなくなった。


← わかった、アメリに行くね。なんとか時間作るから会いたいな

→ やったー、みちゃこ大好き


 夫に、適当な理由をつけて目的地を変えてもらう。何を誤解してくれたのか、夫は鼻唄混じりで嬉しそうになった。




 スマホを握る手が痛いことに気付く。無駄に力が入っている。コーヒーを一口飲み、平常心に戻ろうとする。クリスマス前に、二人で行ったホームセンター。向かう途中、真知子の要望で目的地を変えた。それだけじゃない、買い置きのビールがラガーからドライに変わったのも、僕が夜勤から帰ると部屋の掃除がされていることも。

 創作をするような想像力のある人間は、日常の出来事でもこんな風に脚色出来てしまうのか。そう感心することでしか、不安な気持ちを誤魔化すことが出来なくなった。


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