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X-39 聖女庁の現状

視点:エリシア・12歳


ひとまず不安げな表情の庁舎職員たち(ほぼ保守派)を解散させ、正式に聖女に任命されてルンルン気分のミレーネを一旦家に帰し、聖女庁内の私にあてられた執務室に入る。

うっぷ。ここも埃だらけだ。


「エリシア様、5分程頂けますか。掃除致します」


マリアンヌは掃除用具をどこからともなく取り出しそう言うと、残像を残しながら高速で動き出す。

いやなにこれ。

みるみるうちに執務室が綺麗になっていく。

5分後、室内はところどころに☆マークが点滅するアニメ的な清潔感に溢れていた。

そしてなんとなくどや顔のマリアンヌ。

くそ。可愛い。


「ありがとうマリアンヌ。さすがね」


「いえ、この程度なんということもございません」


さて、聖女庁を再構築するにあたり、まずは現状の“惨状”を整理する必要がある。

執務机に座るとマリアンヌに紅茶を淹れてもらい、私は淡々と問題点を書き出した。


【1. 建物が廃墟(物理)】


扉:軋む。建付け悪し。もう何年も整備してない感じ。

廊下:埃まみれ。保守派のやつらって殆ど生まれは貴族だから基本人任せで掃除しない。

書庫:蜘蛛の巣。だーれも使わん。書籍も無事かわからん。

祈祷室:物置。木箱だらけ。なんで古いドレスが沢山置いてあるん?ここ宗教施設やん。

庁長室:ここも物置。てか床もギシギシゆーとる。隅のほう腐ってるねこれ。


→再構築ではなく建て直しレベル。

 聖女がおわす場所ではない。


「いやいや、1年ほど前まで高齢とはいえ聖女いたんだよね?それでここまで廃れるもんなの?」


「先代聖女様は、10年ほど前より健康上の理由として巡礼の旅を止め、同時に登庁もされていなかったようです。」


マリアンヌが説明する。

なるほどな。聖女が使用する広範囲の浄化、祝福の神聖魔法はかなり体力も使うと聞く。

10年前と言えば当時は40歳くらいか、寿命が短いこの世界では体力が少ないとされる女性で40歳なら立派な老人の部類に入ってしまうか。

是非もなしですなぁ。

聖女が登庁してこないことをいいことに、ここは10年以上保守派の好きなように使われてた訳だ。

ほぼ倉庫として。


【2. 人員が“保守派の巣窟”】


「聖女は第一皇子と結ばれるべきですわ!」

「皇帝派は信用できません!」

「聖女庁は教会のものです!」


……はい、思想が偏りすぎ。


→政治利用まっしぐら。

 聖女庁の再興どころか、帝国の不安定化要因。

保守派というよりもう教会派だね。

いきなり首を挿げ替えるのは方々に睨まれるので、水面下で少しずつやっていくしかない。


【3. 聖女ミレーネの“自覚”が強すぎる】


ミレーネ(12歳)

「わたしは帝国の象徴です。庁長は当然わたしです」


……まあ、間違ってはいないけど。


→自信は良いが、方向性を誤ると“暴走聖女”になる危険性。

 影の庁長(私)が制御する必要あり。


ミレーネについては、皇子に傾倒してもらう必要があるので、こちらでうまく誘導するしかない。

教会の象徴ではあるが、政治的権限を持たせてはいけない。そこだけは注意。

ただ、ある程度の暴走は許容する。

自分自身の価値を高めるのは聖女としては必要不可欠だからね。

やりすぎは困るけど。


【4. 聖女庁の理念が曖昧】


先代聖女が高齢で引退してから数年、庁の理念が形骸化している。


「浄化の巡礼って何?」

「聖女の役割って?」

「政治と宗教の線引きは?」


総じて保守派の面々は誰も答えられない。


→理念の再定義が必須。

 あくまでも“救済”を中心に据える必要がある。

この10年、聖女の巡礼が止まっている状況なので、各地の悪い気も大分溜まっていると思われる。

”魔素”というやつだ。周辺に漂うマナが滞り、人々の負の感情により淀んでしまう現象を言う。

それは野生動物の魔物化にも繋がる。

それにより教会、修道院のない農村部では医療機関もなく、魔物も増えている事だろう。

まずはそこ優先に向かい、救済する。


【5. 巡礼路が荒廃】


魔物の巣が増加

崩落している街道多数

祠が破損

地元民の協力体制が崩壊


→正直、聖女が安全に巡礼できる状態ではない。

 護衛隊と整備隊の新設が必要。

聖女が向かう経路にも問題がある。

騎士団巡回や冒険者の立ち入りが少ない場所だと、なかなか国の救済が届かない。

巡礼には帝国僻地の問題点を実際に見て確認し、政治中枢に報告する役割もある。

調べてみないと解らないが、かなり広大な国土を持つ帝国だ。

こういう援助が届かず、この10年で廃村となった村もありそうだ。

かろうじて生き残っている農村も中央に対して不信感が高くなっているだろう。

そこの払拭も課題だ。


【6. 財務が壊滅】


帳簿が読めない

収支が不明

物資の横流し疑惑あり

保守派が勝手に予算を使っていた形跡


→結論から言うと実務派(財務の鬼)を投入するしかない。

まず、保守派は金の使い方に対して大雑把すぎる。

月ごとに本部から予算が回ってくるが、聖女引退からこの庁舎の維持管理分のみの配分となっていたことは解っている。

それはいいのだが、…おい保守派、予算以上に豪華な食事をしているじゃないか。

食堂と厨房だけは小奇麗にしやがって。

しかも料理人雇ってるの?

自分らで作らんのかい。修道女やぞ。

その金はどっから湧いて出た?

領収書捨てるなよ。

まずはそこから切り崩す必要がありそうだ。



【7. 聖女の護衛体制がゼロ】


先代の護衛隊は解散済み

現在は“修道女の祈り”のみ

物理的な防衛力が皆無


→新たに隊長を立てて新設する必要あり。

こういう施設には決まって正門前に神殿騎士が立つのだが、現状庁舎には門番すらいなかった。

暫定で教会本部から神官戦士、神殿騎士を十数名派遣する。

その後は予算と相談しながら一般から募集をかけ入れ替えていく。

期間契約で冒険者を雇うのもいい。

騎士は日々訓練に明け暮れ精強ではあるが、元は貴族の次男三男でお坊ちゃんが多い。

中にはわがままな奴もいるし、狂信的な者もいて危険。なにより維持費が高い。

長く付き合う必要性を感じない。



【8. 教会保守派の干渉】


聖女を政治利用しようとする

皇帝派を弱体化させたい

聖女庁を“教会派の私物”にしたい


→最大の敵であり眼の上のたんこぶ

 ここを切り離さない限り、聖女庁は腐る。

もう7割ほど腐りかけだったが、どげんかせんといかん。

枢機卿クラスとまではいかないが、他派閥の比較的上の立場の人間を少しずつ招聘し、それぞれを管理してもらう。

教会の保守派、実務派、調停派、全派閥をバランス良く招き入れ、庁内の力関係を調整する。

一番いいのは保守派にこちら側の二重スパイを作ること。保守派というか教会派の思惑を筒抜けにする。

保守派の中にいい人材がいたら交渉する。


【9. 聖女ミレーネの精神的負担】


聖女としての責任

第一皇子への傾倒

周囲の期待

保守派の圧力


→心の安定が最優先。

 紅茶の温度管理は必須。

責任に関しては本人のやる気がMAXなので問題はない。

皇子への傾倒は普段の様子を見るからに、基本お花畑なのでこれも大丈夫。

殿下に対して基本私は塩対応なので、これも残りの学院生活で実を結ぶだろう。

周囲の期待に関しては、今後の私の采配による巡礼の効果に左右する。

保守派への対応はこいつらはもうこうなんだと割り切って対処するしかない。

体制が整うまで、最初のうちはうまくその要望を受け流す感じだ。


【10. 影の庁長(私)の負担が大きい】


12歳

学院生(初等部)

公爵令嬢

皇帝派の未来

聖女庁の実務

追放フラグ管理

スローライフ計画


→全部私がやるの?

 ……まあ、やるけど。

陛下からの勅命だしね。


◆総括

聖女庁の現状は――

廃墟 × 保守派 × 聖女の暴走 × 財務崩壊 × 巡礼路壊滅 × 政治利用


これを12歳の私が立て直すのだから、まあ、普通に考えて無理ゲーである。


でも――


影でこそこそと平均値でやれば、なんとかなる。

紅茶の温度と同じくらい安定していれば。

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