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X-25 生徒会勧誘 ― 空気と紅茶は静かに

帝都学院・学食

視点:エリシア・12歳


「……まず、席の安定性を確認。よし、今日も平和」


帝都学院に入学して1週間。

私は学食の隅のテーブルで、いつものメンバーと昼食をとっていた。

リュディアは肉を3倍盛り、クリスティーヌはサラダを3回混ぜ、エドモンドは栄養バランスを3秒で分析していた。 私はというと、パンとスープと、ツッコミを噛みしめていた。


「ねえエリシア、今日のスープ、ちょっと塩分強くない?」


「リュディア、それはあなたが肉をスープに浸したからよ」


「まあ、庶民的な味ですわね。悪くはありませんけれど」


「クリス、それ“悪くない”って言うときの顔じゃないわよね?」


「このスープ、塩分が多い分、糖質を抑えればバランスが取れますね。塩分を前衛とするならば、糖分である魔術師部隊との連携が…」


「ふふっ。エドモンド、食事に戦術理論持ち込まないでよ」


入学一週間で、妙にウマの合う私たちは、気軽に話せるようになっていた。

そんな他愛もない会話を楽しんでいた、そのときだった。


「エリシア、ここにいたか。高位貴族用の個室にいると思っていた」


空気が――止まった。


「……あー……来たか……」


振り向かなくても分かる。

わざわざ食事中に突撃してくるこの空気の読めなさ、声の硬さ、そして背後から漂う“正論の圧”。

第一皇子、レオニス・アレ・エルドラン。

私の――不本意な婚約者。


「生徒会に入れ。君の能力なら、書記は務まる」


「……こんにちは、またはごきげんようで始める気はありませんの?」


「こんにちは。生徒会に入れ」


「語順だけ変えても、内容が変わらないですわ」


その後ろには、兄トリスタンが両手を合わせていた。

目が「ごめん、止めきれなかった」と語っている。

うん、知ってた。兄はレオニスに弱い。


「兄上、なぜ止めなかったのですか」


「いや、止めたんだよ?でも“学院のため”って言われたら、もう無理で……」


「学院のために、私の昼休みが犠牲になるの、理不尽じゃない?」


「トリス、その話は散々したはずだ。…エリシア、君の筆記速度と記憶力は、書記に最適だ。それに君なら会議の議事録を“無駄なく、簡潔に、かつ皮肉を交えて”まとめられる」


おいー。公衆の面前でそれはないだろう。


「最後の要素、必要ですの?」


「必要だとも。生徒会活動全体が眠くなるからな」


リュディアが、口をもぐもぐさせながら言った。


「え、エリシアって生徒会入るの?すごいじゃん!」


「すごくないわ。これは…“仕事が増える”って意味よ」


クリスティーヌが、紅茶を一口飲んでから小声で言った。


「でも、皇子殿下直々のご指名ですわ。断るのは難しいのでは?」


「そうね……断ったら、たぶん“国家のために必要だ”って三回くらい言われるわ」


エドモンドが、静かに頷いた。


「皇子殿下の言葉には、重みがありますからね。ですが、エリシア嬢が無理をなさらないことを願います」


私は、スプーンを置いて深呼吸した。

このまま断っても、どうせまた来る。

なら――利用するしかない。

私の未来のスローライフのために。


上等じゃないか、レオニス。  

生徒会に入って、君の“正義”を間近で観察しようじゃないか。 

そして、将来うまく私を断罪してくれるように、記録を残しておこう。


「……分かりましたわ。書記、お引き受けいたします。ただし、紅茶の時間は死守いたしますわね」


「了承した。君の紅茶は、学院の安寧に必要だと理解している」


「……なんかもう、色々と間違ってる気がしますけど、しょうがありませんわね」


こうして、エリシア12歳は、生徒会という名の“仕事の沼”に片足を突っ込んだ。

断罪計画の布石は、静かに、しかし確実に打たれた。


紅茶は冷めるかもしれない。 でも、ツッコミは温かいまま。


……と思った矢先、レオニスが静かに口を開いた。


「それと、君たち三人にも声をかけておこう。 リュディア・アレ・エルドラン、クリスティーヌ・フォン・アウドミラ、エドモンド・オル・アムネジア。君たちも、生徒会に参加してほしい」


「えっ、お兄ちゃん私も!?」 リュディアがスプーンを落とした。


「ああ、リュディアの行動力と剣術科での影響力は、広報活動に適している。“元気担当”として期待している」


「元気担当って何!? でもちょっと楽しそう!」


「……皇子殿下、私はそのような軽率な役職名には納得できませんわ」


クリスティーヌが眉をひそめる。


「ふむ。君には“文化担当”を任せたい。学院の礼節と格式を守る役割だ。君の美意識と判断力は、十分に信頼に値する。風紀委員との橋渡しをお願いしたい。」


「……まあ、それならば。帝都の文化的水準を保つのが我が家の誇りですもの」


「エドモンド・オル・アムネジア。君には“戦略顧問”として、生徒会の運営方針に助言を願いたい。戦術論の視点から、学院の安全と秩序を支えてほしい」


「……光栄です。ですが、私の意見が本当に役立つかは、やってみないと分かりませんね」


私は、手帳に静かに書き込んだ。


生徒会構成(暫定)


書記:エリシア(紅茶死守)

広報:リュディア(元気担当)

文化:クリスティーヌ(もみあげ担当)

戦略:エドモンド(筋肉と戦術の人)

副会長:レオニス(猫かぶり中、どうせ兄トリスタンの入れ知恵)

会長:トリスタン(まだまだ影が薄い。)


そして、断罪フラグの種まきが始まる。

私は呟く。


「……これは“生徒会”というより、テンプレで悪役令嬢への第一歩では?いいかもな…」


「何か言ったか?」


「いえ、紅茶が冷める前に会議が終わるといいですわね」


こうして、エリシアとその同級生たちは、生徒会という名の舞台に引きずり込まれた。

紅茶とツッコミと断罪計画を携えて、学院の中心へと歩み出す。


猫をかぶった皇子と、断罪を夢見る聖女候補が待っている。のか?

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