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X-23 帝都学院入学式

帝都学院・講堂

視点:エリシア・12歳


「靴、よし。制服、よし。髪型、よし。あと、“婚約者”関連の話題が出ませんように」


帝都学院。帝国最高の教育機関。

さあ、皆さまお待ちかね、学院編のスタートですよ。


格式と伝統に包まれたその門を、私は踏み越えた。

12歳。身長は人並み。態度は堂々。

同行者は侍女マリアンヌのみ。


「エリシア様、講堂の座席は中央列。なお、式典用の椅子は座面が高めです。足が浮く可能性がありますので、姿勢に注意してください」


マリアンヌが、背後から静かにハンカチを差し出した。

怖い。けど布の選定が完璧。


「……この学院、椅子から革命が必要ね」


この期に及んでまだ椅子ネタか。


──講堂に入ると、何人かの上級生たちが整列していた。

生徒会らしい。その中に兄トリスタンの姿もあった。

え、兄様生徒会やん。知らんかった。あ、公爵家嫡男だしな。そらそうか。

その隣に、見慣れた金髪の後ろ姿がある。


レオニス。第一皇子。婚約者。……不本意な。


婚約者に内定してから、何度か顔を合わせている。

帝姫教育の際、ダンスレッスンに来たときもあった。

教育係の血もにじむような努力の甲斐があって、ひとまず人前に出せる最低限のレベルはクリアしたらしい。

成長するにつれ一応は礼儀正しくなり、優雅にはなったが、しゃべりだすと空気が読めないのは相変わらずなんだよな。

彼が私に何を期待しているのかは、まだ不明。

ただ、今日の式典で目が合ったら、私はうなずくだけに留める予定。

話しかけられたら、まずは“式典中です”って言う。

それでも来たら、“式典中です、二回目”って言う。


──入学式が始まった。


壇上には学院長と教導官たち。 荘厳な音楽が流れ、式典は静かに進行する。


「帝都学院は、知識と礼節を重んじる場である。諸君らがここで学ぶことは、未来の秩序を築く礎となる――」


私は、式典の言葉を聞きながら、壇上の装飾バランスを見ていた。


「……あの花、左右非対称。あと、演台の高さが微妙に傾いてる。秩序の礎が、物理的に不安定」


だめだ、気になるととことん気になってしまう。

退屈だからか。

隣の席の子が、そっと距離を取った。


「……これが、平均値の反応ね」


こいつやべー感だせたか。

学院歌の斉唱が始まる。

私は口を動かしながら、音程の揺れを分析していた。


「この旋律、テンポが甘い。あと、“未来”って言いすぎ。語彙力に革命が必要ね」


未来ある学生っていうテーマはわかる。でも現実も見ような。

マリアンヌが、隣で静かに拍手していた。

怖い。けど拍手のタイミングが完璧。


──式典が終わり、退場の列が動き出す。

私は、レオニスの視線を感じた。

彼は遠くから、ほんの少しだけ目を細めていた。


(来ないで。式典中は来ないで。……あ、来ない。よし)


私は静かに立ち上がり、整列した。

尊厳は守られた。 婚約者は、今日も“距離感のある沈黙”を保ってくれた。


こうして、エリシア12歳の学院生活が始まった。

入学式は荘厳。

椅子は高め。


平均値という常識との戦いは、まだ始まったばかり。

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