1-23 役割と相談と、ちょっとだけ成長
三日後
ヴァル=グラード市庁舎・調停室
「……まず、椅子が固定されてるのを確認。よし、和解会議開始」
市庁舎の調停室。
右側:冒険者ギルド代表・バルド。
語彙は3語、ジャイアリズム封印中。
左側:修道院代表・アグネスちゃんさん(敬称込み)。
語彙は多い、霊脈マニア。
中央:私。
元企業コンサルタント、現公爵令嬢だけど修道院に追放された修道女。
それと作者、いい加減椅子ネタはもうやめて。
背後:マリアンヌ。
いつの間にか紅茶を淹れている。怖い。
「まず、先日のゴーレム戦について。誰もケガをせず、連携も見事でした。副隊長の詩は……まあ、風でしたけど」
バルドが腕を組んでうなった。
「副隊長ってのは誰だか知らんが……俺、ちょっと反省した。“俺のもの”って言いすぎてた。“俺のもの”って言う前に、“これ何?”って聞くべきだった」
「それ、文明の第一歩よ。次は“調べる”という概念に進化できるといいわね」
アグネスちゃんさんも、静かにうなずいた。
「我々もまた、“神のもの”と断定しすぎていたかもしれません。神は沈黙されることもあります。沈黙の中に、調査の余地があると気づきました」
「それ、詩じゃなくて報告書に書いてほしいわね。あと“沈黙の中に調査”って、語感が逸脱してるわね」
マリアンヌが、紅茶を注ぎながら補足した。
「現在の合意事項――
冒険者側:不明なものはまず修道院へ相談。
修道院側:神聖断定は保留。調査後、利益還元を検討。
副隊長:詩は短く。できれば意味を添えて。
エリシア様:椅子の安定を確認済み」
もう椅子については諦めた。
バルドが、少しだけ照れたように言った。
「昨日、“光る何か”に触る前に、修道院に聞いたんだ。そしたら、“まだ意味不明”って言われた。だから、触るのやめた。俺、成長してると思う」
「それ、都市法的には“奇跡”よ。あと、意味不明って言われて触るのやめるの、なろう小説の主人公なら絶対やらないわね」
アグネスちゃんさんも笑った。
「我々も、冒険者の発見力と行動力を尊重すべきと学びました。神聖さは、時に“筋肉と直感”の中にも宿るのです。たぶん」
私は手帳に記録を残した。
問題:冒険者と修道院の役割衝突
結果:ゴーレム戦を通じて連携成立
対応:相談と調査のルート確立
副作用:詩が残った(副隊長の)
進展:和解成立。共存の兆しあり
特記事項:副隊長の詩は“意味の風”として都市伝説化の兆し
こうして、私はダンジョン都市の調停を完了した。
祈りと筋肉、詩と報告――都市の混沌は、少しだけ秩序を学び始めた。
そして、次に誰かが“俺のもの”と言いかけた時、 誰かが“それ、まず相談”と返す未来が、ほんのり見えてきた。
なお、マリアンヌはこの会議中に3回背後から現れ、 紅茶、メモ、そして副隊長の詩集(勝手に添削済)を差し出した。 怖い。




