表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/70

X-22 詩と爆裂と、12歳の冷静

入学5日前

帝都・グランディール公爵邸

地下演習場


「……アンリ副隊長、詠唱は短く。できれば意味のある言葉でお願いします」


私は演習場の端で、魔力計測器を見つめながら言った。

目の前では、隠密部隊副隊長・アンリが詩を詠んでいた。

彼は“詩人化アーティファクト”に触れて以来、 戦闘魔法をすべて詩で詠唱するようになった。

しかも、センスがない。


「風よ、舞え。空よ、叫べ。爆ぜよ、我が魂の……えっと、なんかこう……ドーン!」


「最後、語彙が力技だったわよね」


アンリは、詩の最後に“ドーン”と叫びながら魔力を放った。

演習場の壁が軽く焦げた。

マリアンヌが、後方でそっとメモを取っていた。


「副隊長詩・第47稿:『風と空と魂とドーン』  

評価:爆裂率高め。

意味:不明。

被害:壁1枚。

感想:うるさい」


学院に入学すると、私もマリアンヌもなかなか学院の外へ出ることができなくなる。

そこで副隊長アンリが学院の外を担当し、伝令役その他雑務をこなしてもらうのだ。

なんか詩に呪わてれてる身ではあるが、これでも一応隠密部隊のNo,3らしい。

ちなみにNo,1はマリアンヌ。No,2はマリアンヌの父親で、暗殺部隊隊長のアドルである。


アンリは、詩の巻物をめくりながら言った。


「いや、今回は“風の怒り”を表現したかったんだ。でも途中で“空の叫び”が入ってきて、魂が混乱して……」


「それ、詩じゃなくて事故よ」


私は魔力計測器を確認した。


「魔力出力は安定。でも、詩のせいで発動までに6秒かかってるわ。実戦では、6秒あればゴーレムが3回転できます」


アンリは真顔でうなずいた。


「じゃあ、詩を短くすればいいんだな。よし、次は――  『爆ぜろ』」


おい。急にめんどくさくなった?


「それは詩じゃなくて命令よ」


マリアンヌが、メモを追加した。


「副隊長詩・第48稿:『爆ぜろ』  

評価:短い。

意味:ある。

被害:床1枚。

感想:逆に潔い」


アンリは、詩の巻物を閉じて言った。


「お嬢、君は詩ってどう思う?」


「意味があるなら、好きよ。意味が風なら、ちょっと距離を置くわ」


アンリは、少しだけ照れたように笑った。


「じゃあ、次は“意味のある風”を目指してみるよ」


「それ、今あなたが初めて言った言葉なのに、なぜか“未来で誰かが使いそう”って予感がするのが怖いのよね」


マリアンヌが、紅茶を注ぎながらぽつりとつぶやいた。


「風って……意味あるんですか?」


「それを副隊長が爆裂で証明しようとしてるのよ。今、壁が犠牲になってるけど」


マリアンヌは静かにメモを取った。


「副隊長詩・第49稿:『意味のある風』  

評価:気象的。

被害:壁1枚。

感想:風評被害」


私は魔力計測器を確認しながら、そっとため息をついた。


「これをフラグというのでしょうね」


こうして、エリシア12歳は詩人副隊長アンリの演習に付き合った。

詩と爆裂、意味と風――都市防衛は、今日も少しだけうるさかった。

そして、未来の迷宮で“意味の風”が再び吹く日が来るとは、まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ