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1-21 光る何かと、共同調査と、語彙の限界

二日後

ヴァル=グラード第一層:ダンジョン入り口前


学院時代に習ったサーチ魔法を発動する。


「……まず、魔物の出現頻度を確認。よし、平均値の1.2倍くらいね」


冒険者側との待ち合わせで第七層へ向かうため、修道院側と共にダンジョンを潜ることになった。

構造は石造りの回廊。空気は重く、魔力は揺れている。

そして、魔物は――多い。 アグネスちゃんさんも神官戦士風の装備で準備万端だ。

でも、問題はない。なぜなら、


「マリアンヌ、掃除をお願い」


「承知しました」


──ギュン。


音もなく飛び出すマリアンヌ。

修道服の裾が翻り、手には暗器。 次の瞬間、魔物(牙付きトカゲ型)が三体まとめて細切れに。

その動きは、もはや舞。

修道院側のアグネスちゃんさん(敬称込み)が、ポカン顔で呟いた。


「……神の加護?」


「違います。マリアンヌです」


「でも、あの動き……霊脈が震えて……」


「それ、霊脈じゃあないです。音速を超えた時に発生する衝撃波(ソニックブーム)です」


──さらに進むと、トラップが発動。

床が沈み、天井から槍が降ってくる。 でも、マリアンヌは――


「エリシア様、上です」


──ギュン。


槍を空中で受け止め、逆に壁に突き刺す。

その動作、無音。 アグネスちゃんさん、再びポカン。


「……霊的な反応が……」


「いいえ、普通に物理です」


私は、なぜかどや顔で歩いていた。

別に私が戦ってるわけじゃない。

でも、マリアンヌは私の専属侍女。

つまり、私の“装備”みたいなもの。

語弊があるな。異論は認める。


「アグネスちゃんさん、安心してください。このダンジョン、マリアンヌがいれば“祈り”不要です」


「……神の代行者……?」


「違います。マリアンヌです」


──さらに進むと、魔物の群れ。

モンスターハウスってやつか。30体以上。牙、爪、毒、羽根。 でも、マリアンヌは――


「エリシア様、少々お待ちを」


──ギュン。


暗器が舞い、飛んでいる魔物が堕ち、毒が無効化される。

両手からすんごい数のワイヤーみたいなのが出てますな。

それが魔物に巻き付いたと思ったら、次の瞬間には爆散している。

うえ、ちょっとグロい。でも返り血は浴びてない。さすが。

修道院側、全員ポカン。 私は、さらにどや顔。


「……これが今代の”静かなる爆裂”の力。グランディール式スローライフです」


「……スローライフって、戦場なんですか?」


「違います。何度も言いますがマリアンヌです(どやぁ)」


こうして、第七層への道は、無双とポカンとどや顔で埋め尽くされた。

祈りは沈黙し、魔物は沈黙し、語彙も沈黙した。

でも、マリアンヌは躊躇しない。



そしてヴァル=グラード第七層・封印前


「……まず、椅子がないことを確認。よし、現場視察開始」


私は第七層の封印前に立った。

石造りの広間、微かに揺れる魔力の膜、そしてその中心に錫杖っぽいのが垂直に刺さってる。

錫杖の先の――光る何か。

うーん。見た目魔石っぽいけどなー。

その前には、修道院と冒険者ギルドの代表者が並んでいた。

並んでいるだけで、会話はしていない。 視線で殴り合っていた。


「この光は、神の意志です。触れてはなりません」


修道院側の代表、アグネスちゃんさん(敬称込み)は、 聖典を掲げながら“霊脈”という単語を1分に4回使っていた。 今日は記録更新らしい。


「俺が見つけたんだ。だから俺のものだ。触るぞ」


ギルド側の代表、バルドは、語彙を3語に絞ってきた。

効率化のつもりかもしれないが、意味は薄い。


「あーあー、まってまって、共同調査って、“共同で睨みあう”ことじゃないのよ」


私は封印前に設置された調査台に近づいた。

そこには、修道院側の“神聖度測定儀”と、 ギルド側の“触ってみた記録帳”が並んでいた。


「マリアンヌ、記録を」


「はい。現在の状況――  

修道院:測定中。数値は“神っぽい”で固定。  

ギルド:触った回数12回。うち3回は“うおおお!”反応。  

封印:無言。

光る何か:光ってるだけ」


「つまり、なーんにも進展してないのね」


アグネスちゃんさんが、聖典を閉じて言った。


「神は沈黙の中に語られます。この光は、語られた沈黙です」


「それ、哲学じゃなくて詩ね。副隊長の爆裂詩と同じ匂いがするわ」


バルドが、記録帳をめくりながら言った。


「昨日、触ったらちょっと暖かかった。だから、俺のものだと思う。あと、光ってるし」


「触った感触と光ってるからって所有権が発生するなら、街灯もあなたのものになるわね」


マリアンヌが、静かに補足した。


「ギルド側、昨日の記録:“ちょっと暖かい。俺のもの。あと、光ってる。” 本日:“まだ光ってる。俺のもの継続。”  なお、法的効力:ゼロ」


私は手帳に記録を残した。

さてさて、纏めてみようか。


問題:光る何かの正体

修道院側:神聖度測定中(数値は詩)

ギルド側:触ってみた記録更新中(語彙は減少傾向)

封印:沈黙

光る何か:光ってるだけ


うーん、実家で同じようなことあったなぁ。副隊長絡みで。


「よろしい。ではとりあえず“光る何か”に正式名称をつけましょう。“神の遺物”でも、“俺の宝”でもなく、第三案を。候補:光る何かさん、光るやつ、発光体A」


アグネスちゃんさんとバルドが同時にうなった。

それは、納得ではなく“語彙が足りない”という音だった。


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