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1-19 修道院と、神と、光る何かと

ヴァル=グラード修道院・応接室


「まずは、椅子が飛んでない場所に落ち着けてよかったわ」


私は修道院の応接室に腰を下ろしながら、 到着早々の広場での“信仰 vs 筋肉”の口論を思い出していた。

とりあえず、先に修道院側の言い分を聞くことにしたのは、 椅子の安定性と空気の湿度を優先した結果である。


「お待ちしておりました、エリシア様。修道院長のアグネスです」


現れたのは、白衣に身を包んだ小柄な女性。

年齢不詳、語彙は霊脈寄り、表情は常に“神の代弁者”モード。

そして、名前に“ちゃんさん”がついているのは、本人の希望らしい。


「以後、アグネスちゃんさんとお呼びください。“ちゃん”が親しみ、“さん”が敬意です」


やめろ。作者の年代が知れる。


「……語尾で人格を分割するんだ。」


マリアンヌが、静かに紅茶を注ぎながら補足した。


「ちなみに、修道院内では“アグちゃん”と呼ばれると怒ります。“ネスさん”でも怒ります。“院長”と呼ぶと無反応です」


「つまり、正解は“アグネスちゃんさん”だけなのね。」


めんどくさ。

アグネスちゃんさんは、聖典を開きながら語り始めた。


「第七層の封印は、神の意志によって維持されています。その奥にある“光る何か”は、神聖なる遺物であり、冒険者の手に渡ることは、霊脈の乱れを招きます」


「その“光る何か”、正式名称は?」


「まだ不明です。ですが、神聖です」


根拠がねえよ。


「不明なのに神聖なのね。じゃあ、私の朝食も神聖だったかもしれないわ。名前不明だったし」


マリアンヌが、紅茶の湯気を見つめながら言った。


「お嬢様の朝食は“謎の白い煮物”でした。神聖性より先に、食材の確認が必要かと」


いや、あれはあれで美味しかったよ?

アグネスちゃんさんは、聖典を閉じて真顔になった。


「冒険者たちは、神の領域に踏み込もうとしています。彼らは“光る何か”を“俺のもの”と呼び、封印を“邪魔な扉”と呼びます。これは、信仰への冒涜です」


「でも、共同管理してるんでしょ? 扉の前で」


「はい。睨み合いながら、共同で鍵を持っています。開ける気はありませんが、鍵は磨いています」


「それ、もはや“神聖な鍵磨き部”じゃない?」


マリアンヌが、そっとメモを取った。


「鍵磨き部、

活動内容:封印の前で無言の圧力。

部費:銀貨3枚。

活動頻度:週3。

部員数:修道院4名、ギルド側1名(迷い込んだだけ)」


廃部寸前じゃねーか。

私は、紅茶を一口飲みながら静かに言った。


「よろしい。修道院側の言い分は理解したわ。次はギルド側の“俺のもの”理論を聞いてくるわ。おそらく語彙は“うおおお!”から始まると思うけど」


アグネスちゃんさんは、神妙な顔でうなずいた。


「どうか、神の秩序をお守りください。あと、ギルド側に“椅子を投げないように”とお伝えください」


「望むところよ。それは私の専門分野ね」


こうして、エリシアは修道院側の“神聖なる言い分”を聞き終えた。

次は、ギルド側の“筋肉と自由の主張”を聞きに行く。


祈りと剣、封印と椅子――迷宮都市の混沌は、まだ始まったばかりだった。

うん、椅子ネタから一旦離れようか。

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