表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/71

1-18 祈りと剣の境界線

帝国歴705年:7月21日

ダンジョン都市ヴァル=グラード・第1層中央広場


「……この都市、“祈りと剣の境界線”っていうより、“説教と殴打の交差点”って感じね」


石造りの広場。地下へ続く巨大な階段。

そして、左右に並ぶ二大勢力――修道院と冒険者ギルド。

白衣と聖典と“神の権威”を振りかざす修道院。

対して皮革と斧と“俺の自由”を振りかざすギルド。


彼らの共通点はただひとつ。

お互いの話を聞く気がまったくないことだ。


「第七層の封印は神聖なるものです。無断で踏み込めば、霊脈が乱れ、都市が崩壊します」


修道院代表・アグネスちゃんさん(敬称込み)は、“霊脈”という単語を1分に3回使うことで信頼性を演出していた。

たぶん、言えば言うほど神っぽくなると思ってる。

霊脈、かっこいい響きだよね。

いいね。厨ニっぽくて私は嫌いではないよ。うん。


「封印の奥にある“光る何か”は、俺たちが命懸けで見つけたもんだ。神様が持ってるなら、直接取りに来いってんだ」


ギルド代表・バルドは、“光る何か”という語彙力で、 知性の限界を演出していた。

あと、神様に取りに来いって言うの、わりと無茶。


私は議事用の手帳に静かに書き込む。


修道院:神聖性と霊脈保護を主張。

ギルド:探索権と“光る何か”の所有権を主張。

共通点:語彙が偏っている。あと、声がでかい。


両者とも同じくらいの権力を持ってるから、なおタチが悪い。

バルドはギルドマスターだけあって、安易に暴力には訴えない。

そこは評価できる。よく私の到着まで仲間を引き留めたものだ。

能力は高い。……でも、これ以上は限界かな。


赤ペンを振り回してズバズバ解決しそうなユリウスは、報告のため本部に戻っている。

つまり、現地調停は私ひとり。

あと、かろうじて無敵の暗器使いがひとり。


マリアンヌが本気を出せば、暗器で沈静化できるかもしれない。

でも今の武器は言葉だけ。

そして言葉は、この都市で最も軽い通貨。信用性ゼロ。


「――改めまして、帝国公爵家グランディール領より派遣されました、エリシア・フォン・グランディールです。元帝姫候補、現・修道院改革担当、そして本日付でこの都市の調停役を仰せつかっております。  肩書きは多いですが、目的はひとつ。“誰も殴らずに話を終えること”です。ちなみに、現状はどちらの味方でもございません。なお、紅茶が冷める前に終わるのが理想です。」


今紅茶は無いけどな。

公爵家の権力万歳。


「「こ、公爵家?」」


お、ハモった。すげーな。

水〇黄門になった気分。

とりあえず一旦、解散させたい。

事情もクソもない。

それっぽく話して、冷静になってもらうしかない。

私はとりあえず落ち着いて紅茶が飲みたいのだ。


まずは修道院側。


「修道院の皆様。封印の保護は理解しています。ですが、“光る何か”の正体が不明なままでは、神聖性も“たぶん神っぽい”というレベルです」


んで冒険者。


「ギルドの皆様。探索の成果は尊重します。ですが、“俺が見つけたから俺のもの”は、幼等学校の砂場でも通用しません」


神の威光とジャイアリズムの重さを均一にしてみました。

の〇太君もたまにはかっこいいこと言うんだよ。特に劇場版では。

彼、将来は生物学者だからね!(意味不明)

これで拮抗するかな?


「「・・・・・・。」」


おお、両者は沈黙した。 いいぞー。

それは理解ではなく、たぶん“言い返す語彙を探している時間”だな。


私は手帳を閉じる。


「祈りを制する者は、都市を制する。そして、都市を制する者は――迷宮の底に届く。ただし、届いた先で“光る何か”がただの石だった場合、全員で泣いてください。(つд⊂)エーン」


半分が禅問答。

でもね、意味不明な言葉をしゃべる調停者がいるだけで、 ひとまず冷静にはなれるのよ。

こいつなにわけわかんないこと言ってんのって。


「はいっ!ひとまずこの場は解散!…後でお互いの言い分聞くから!私に免じてここは両者とも引いて下さい!」


「お、おお。分かった。」


「畏まりました。」


こうして、元帝姫候補はダンジョン都市の混沌に踏み込んだ。

祈りと剣、封印と利権、そして“光る何か”。

ダンジョン都市編は、静かに、そしてちょっとバカバカしく始まる。


ぶっちゃけ着いたばかりでなんとも言えない。

まずは基本の情報収集。

第七層? 事前勉強してないからまったくわからん。

G〇〇gle先生、教えてください。

伏字になってないのはご愛敬。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ