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1-17 祈りと剣と、階層都市へ

熱帯雨林修道院・南棟応接室

視点:エリシア・17歳


「え、ええと……エリシア様……その……転勤です……またです……」


ポンコツ君は、湿気でふにゃふにゃになった公文書を両手で持ち、 まるでそれが呪われた巻物であるかのように慎重に差し出した。

額に汗。背中に汗。書類にも汗。

もはや紙ではなく、半分スライムだった。


「転勤先は……“ダンジョン都市ヴァル=グラード”。地下に巨大迷宮が広がっていて……修道院と冒険者ギルドの間で、“信仰と利権の殴り合い”が起きてるそうです……」


私は書類を受け取り、スライム状の端を指でつまんで持ち上げた。


「この紙、もう“生き物”じゃない?」


「す、すみません……道中で湿気に負けました……あと、たぶん一部が発酵してます……」


発酵て。羊皮紙が発酵すると何になるんだっけ?

魔導菌? それとも“紙酒”?


「よろしい。で、教皇猊下のご命令は?」


「“信仰秩序の再構築と、迷宮都市の安定化を図れ”とのことです……」


「つまり、“剣と祈りの間に立て”ってことね。冒険者は“迷宮の自由”を主張し、修道院は“神の管理”を主張する。交渉材料は、祈祷書と斧と、たぶん酒ね」


「さ、酒……!? えっ、交渉って、宴会形式なんですか!?」


「可能性はあるわ。酔った冒険者は、信仰より先に踊るから」


冒険者といえば、ギルド帰還後の酒盛り。

もしくは暇を持て余しての酒盛り。

そこから話が進むのだ。

バスタード・〇ードマンのように。

なろう的定番でしょう。


ポンコツ君は、書類の端を指差した。


「あと……都市の第七層に“光る何か”があるらしくて……それを巡って、修道院とギルドが……えっと……“睨み合いながら共同管理”してるそうです……」


「共同管理で睨み合いって、もはや結婚前に倦怠期を迎えた“同居してる婚約者”ね」


「エリシア様……その、ダンジョンって……暗くて……危なくて……ぼく、行かないですよね……?」


「ええ。あなたはここで、紙を乾かしてて。次に来る命令書が液体じゃ困るから」


「うう……紙って、こんなに命がけだったんですね……というか、これも解決しちゃうんでしょうね。その次の転勤先……」


「ポンコツ君、それは話の流れとか、この小説の核心だから、その先は言っちゃダメ。作者が困る」


「???」


私はフード付きの外套を手に取り、 窓の外に広がる熱帯の緑を一瞥した。


「祈りを制する者は、都市を制する。そして、都市を制する者は――迷宮の底に届く」


ポンコツ君は、スライム状の書類を見つめながら、そっとつぶやいた。


「ぼく、エリシア様の“底”に、紙ごと巻き込まれてる気がします……」


こうして、元帝姫候補はダンジョン都市へ向かう。

祈りと剣、封印と交渉――次の転勤が静かに、そしてちょっと発酵しながら始まる。


ハァ……チューハイ飲みてぇなぁ。

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