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1-2 到着 ― 理想と現実の落差

帝国歴705年:4月23日

エリシア断罪から8日後。帝国東部。アバロン辺境伯領。


馬車が止まった瞬間、私はため息をひとつ吐いた。


「……ここが、私の新天地ですか。」


船に胃が揺られること4日、馬車で尻が悲鳴をあげること3日。

おかげさまで支給された修道服も着慣れてきましたよ。

目の前に広がるのは、石造りの古びた修道院。

壁には苔が生え、屋根の一部は崩れかけている。

門扉は軋み、風が吹くたびに不気味な音を立てていた。


うん。ここもテンプレだな。

まるで『追放令嬢の辺境修道院送り』っていうジャンルの教科書みたいだよ。

なろう小説でよくある「追放された令嬢が送られる辺境の施設」ってやつだなぁ。

しかもこの修道院、見た目が完全に廃墟。

私が求めているのはスローライフであって、サバイバルライフではない。

そんなもんがいいなら主人公以外のセリフが一切出てこないソロキャンネタの小説でも読んでくれ。


「スローライフって、こういう意味じゃないんだよ……。紅茶と読書と昼寝三昧のはずが、廃墟探索ってなんだ」


隣に立つマリアンヌが、無表情のまま頷いた。

「エリシア様、まずは中を確認しましょう。安全確保が先です。」


「ええ、そうですわね。まずは現地調査といきましょうか。」


目の前が修道院なので、お嬢口調に戻しておこう。

現地調査と現状把握。コンサルの基本ではあるが・・・。

それよりもマリアンヌさんの現状把握だ。メイド服から修道服に着替えたのは良いが、メイド服よりもますます胸部が主張しているんですが。この8日で物理学や人間工学その他諸々を逸脱した成長を遂げていますよね。EがHくらいになっとるで。

さすがに暗器か胸当てだとは思うが・・・というところで目が合った。ニッコリとほほ笑むマリアンヌ。

怖え。・・・はい。何も聞くなよと。わかりました。


門をくぐると、雑草が伸び放題の中庭が広がっていた。

噴水は水が枯れ、神様を模した石像は首がもげている。

敷地自体は広いから、元は立派な修道院だったんだなぁ・・・。

策で囲まれた畑もあるし・・・中はもはや林だが。

あれ?これ、ホラー系の導入じゃないよね?孤児を出荷する怖い修道女とかいないよね?

ざまぁ系だよね?間違ってないよね?ざまぁ系だよね?間違ってないよね?

大事なことなので2度聞きました。


「……うん、これはひどいわね。」


「予想以上ですね」


「いえ、予想通り。むしろテンプレ通り。なろう小説の修道院って、だいたいこんな感じよ。」


「?、なろう小説とはなんでしょう?」


建物の中に入ると、修道女たちがちらほらと姿を見せた。

その表情は、疲れ切っているというより、もはや魂が抜けているように見える。

神に仕えているというよりは、目がもう既に神の足元においであそばしてる。


「ゴホッ・・・・・・新しい修道女様ですか?」


「は、はい、エリシア・フォン・グランディールです。本日よりこちらでお世話になります。」


私は丁寧に挨拶をした。

公の場では、一応貴族令嬢としての礼儀を忘れてはならない。

まあ、修道院に来た時点で元貴族令嬢だけどね。

でも内心では、"この人たち、働いてるフリの惰性で生きてるな"と、前世の社畜センサーが警報を鳴らしていた。


「まあまあ、ようこそ。お部屋は……ああ、掃除して・・ゴホっ・・おきますね。」


「ありがとうございます。ご無理をなさらず。」


ホコリだらけの廊下を歩き部屋に案内されると、そこは……うん、廃墟だった。

ベッドは傾き、窓は割れ、カーテンは茶色くくすんで穴が空き、風に乗って幽霊のように揺れている。


「マリアンヌ、これ、寝られると思う?」


「物理的には可能ですが、精神的には困難かと。」


「デスヨネー。期待はしてなかったけど、ここまでとは……」


私は荷物を置き、椅子に腰掛けた。

ギシギシと音を立てる椅子に、私のスローライフの夢が軋んでいく。

マリアンヌがいつものように、どこから出したか分からない茶器で紅茶を淹れていく。

どこから出したのその茶器?4次元ポ〇ットかな?


「さて、どうするかな。・・・あーあ、スローライフのはずが、また働く羽目になりそうだ。」


「改革、始めますか?ご領地と同じように。」


快適で文化的な生活が出来て初めてスローライフといえる。


「……やるしかないかなぁ・・・。まずは衛生管理からだろうな。・・・・・水回り、食事、寝具。・・・それが片付いたら業務フローの見直しをして…修道女のシフト管理と、教義の再教育。」


「では、私が裏側の実態調査を。」


「やっぱり裏側調べるしかないか。危険も伴うだろうな。頼むよマリアンヌ。君の暗器が役に立つ日が来るとは思わなかった。ていうか、修道院で暗器って何の宗教儀式だよ?」


「いつでも処してご覧に入れます。常在戦場でございます。」


「――いやいや、ここ修道院だから。一触即発の国境最前線じゃないから。」


マリアンヌはフンスと両拳に力を入れている。

あぶねーな。


「・・・いきなりの殺伐展開・・・。頼むからここの雰囲気に飲まれないでね。処さなくていいからね。てかまだ誰を処すのかも決まってないし。いやいやそもそも安易に処しちゃったらかなりやばい宗教施設になっちゃうでしょ。ここ清廉潔白な修道女が集う修道院よ?ア〇サ・クリスティなの?鎌井達の夜なの?私たち以外全員処しちゃうの?」


「ア〇サ何某や鎌井何某は寡聞に存じ上げませんが、それもまた改革のひとつかと。」


「いや絶対ダメでしょ。・・・ホントにダメだからね。」


マリアンヌは今度は得意げにニヤリと微笑んで3回ほど意味ありげに頷いた。

おいこら、サムズアップするんじゃない。怖ええよ。


・・・万が一そうなったら、ホッケーマスク被ったチェンソー男に襲われたって報告しよう。

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