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1-14 信仰の本質と改革の覚悟

「奇跡とは、信仰の灯が照らす希望の形――って、セラフィーナ様が言ってましたけど、あれ、演出の台詞ですよね?」


私は紅茶を啜りながら、ユリウスの赤ペンが台本に容赦なく突き刺さる様子を眺めていた。

彼の修正はもはや芸術。

赤ペンの舞、ここに極まれり。


「引用するなら、“照明効果付き”って注釈を入れてください。あと、語尾に“※演出です”も。」


ユリウスは眉をぴくりと動かした。

それが彼の“笑ったつもり”らしい。

査察官、表情筋の節電モード。


「信仰とは、心に宿るものだ。演出はその補助線にすぎぬ。」


「補助線って……それ、数学の話じゃないですか。信仰って、図形だったんですか?」


「信者の心は複雑だ。三角関係より難しい。」


「それは恋愛の話では?」


「エリシア様、三角関係なら、私が間に入って四角にします。」


背後からマリアンヌの声。

うん。平成時代のトレンディドラマ並みにややこしくなるね。

振り返ると、いつの間にか立っていた。

持ち物の整理中だったのか、物理的におかしい数の茶器と暗器を抱えて。


「……マリアンヌ、いつからそこに?」


「最初からです。エリシア様が“照明効果付き”って言った瞬間、背後に立ちました。」


「それ、怖いからやめて。」


ユリウスが一瞬だけ硬直した。

査察官、暗器の気配には敏感らしい。


「信仰とは、心に――」


「宿るものです。知ってます。それを守るために、私はこの修道服に“信仰の証”を隠しています。」


「それは暗器では?」


「はい。信仰の証です。」


「???」


ユリウスはペンを置いた。

それは“諦め”ではなく、“混乱”のため息だった。


そして、彼は懐から小さな封筒を取り出した。

赤ペンの次に怖い、公式文書の香り。


「そういえば、枢機卿ラファエロ猊下から伝言を預かっている。」


「……また転勤ですか?」


「違う。今回は“感謝と忠告”だ。」


ユリウスが封筒を開き、淡々と読み上げた。


「“エリシア・フォン・グランディールへ。あなたの改革は、教会に新たな風を吹き込んでいます。ですが、風は時に嵐となる。紅茶をこぼさぬよう、穏やかな風を心がけなさい。追伸:マリアンヌの暗器は定期点検を。”」


私は紅茶を見つめた。

こぼさぬよう、穏やかな風。つまり、“静かに暴れろ”ということか。


「……ラファエロ様、詩人になったんですか?」


「学院時代は生徒会の活動の傍ら、文芸部だったそうだ。」


「納得しました。あと、マリアンヌの暗器は点検済みです。昨日、茶器と一緒に磨いてました。」


マリアンヌは得意げに暗器のひとつを掲げて報告する。


「はい。信仰の証は常に清潔に。」



私たちは立ち上がった。

信仰の本質を問い直す舞台は、スポットライト付き、暗器付き、そして詩的な忠告付きで幕を開けた。

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