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1-12 波紋 ― 信者の熱狂と教会本部の懸念

講演会の翌朝。

修道院の中庭は、まるで祭りの翌日のような熱気と混乱に包まれていた。


「聖女様の微笑みで、私の腰痛が治りました!」


「聖女様の涙を模した水を飲んだら、恋が叶いました!」


「聖女様のくしゃみで、隣の畑が豊作に!」


……いや、それはもう奇跡じゃなくて願望と妄想の合体事故だろ。


「マリアンヌ、これ、講演会の影響?」


「はい。信者の方々が“奇跡の余韻”に浸っておられるようです。中には、聖女様の肖像画に向かって願掛けを始めた方も……」


「それ、信仰っていうより、推しの神棚化ってやつじゃない?」


ほらよく自分の推しに対して言う、〇〇は神!ってやつだよ。


私は、講堂の隅で“聖女の加護を受けた石”を売っている売店を見ながらため息をついた。

昨日までは“記念品”だったのに、今朝から“御守り”に昇格してる。値段も倍。


「……セラフィーナ、演出力は本物だな。信者の財布まで動かしてる。」


「ですが、教会本部からの視察が近いとの報告がありました。査察官、理性の紅筆様が、講演会の教義逸脱について調査に来られる可能性が高いです。」


「理性の紅筆……あー、あの“赤ペン先生”か。教義違反には容赦ないって噂の。」


「はい。前回の査察では、聖歌の歌詞に“商業的表現”が含まれていたとして、とある修道院の修道院長が更迭されました。」


「それ、今回の講演会、アウトじゃね?」


私は、セラフィーナの執務室に向かいながら、講演会の記録資料を手に取った。

演出台本、信者向けパンフレット、寄付金の収支報告――どれも、信仰というよりイベント運営資料。

わーい全部抵触してるやんかー。

セラフィーナは、いつものふわりとした笑みで迎えてくれた。


「まあ……エリシア様。ご機嫌麗しゅうございますか?」


「ええ、麗しいですわ。信者の熱狂ぶりを見て、いろんな意味で。」


「信仰が広がるのは、良いことですわ。人々の心が救われ、教会の柱が強くなります。」


「ですが、教義から逸脱してしまえば、柱が折れることもありますのよ。…査察官が来る前に、少し整理しておいた方がよろしいのでは?」


セラフィーナは一瞬だけ沈黙し、そして静かに頷いた。


「……ええ。奇跡を“見せる”ことに夢中になりすぎて、信仰の“中身”を見失ってはなりませんわね。ご忠告、感謝いたします。」


私は、彼女の言葉に少しだけ安心しながらも、資料の中にあった“次回講演予定地:帝都”の文字に目を留めた。


「……帝都でこれをやったら、確実に枢機卿会議が炎上するだろ。」


「はい。その場合、エリシア様のご助言が必要になるかと。」


ご助言ねぇ。確かに聖女にはムカついてるけど、ざまぁ展開よりも私は怠惰な生活を送りたいから修道院に喜んで来たのであって、好き好んで改革をしたいわけじゃあない。

ここだけで言うなら、虫と気温の問題を解決し、聖女うんぬんのイベントを無視し続けていれば隠遁生活はできるわけだしなぁ。

ぶっちゃけ聖女関連には関わりたくないわけよ。

おまいら勝手にやって勝手に潰れてくれよ。

無理をして私自ら罰ゲームをこなす必要はないんじゃないかなぁ。


「エリシア様。まさか自己中心的な考えに浸ろうとしておりませんか?ジコチュー令嬢に変身ですね。自分さえよければ、あの聖女の派閥が強くなることで私や旦那様、ひいてはご領地がどうなろうと関係ないと?やーいジコチュー。」


「・・・マリアンヌ、相変わらず私の考えを読むのが得意よね。そして辛辣。」


自己中もいいんだけどなぁ。

今までの公爵令嬢としての立場がそれを許さないんだろうなぁ。

向こうからちょっかいを出してくることもあり得る訳だし。

ハァ、今回もちょっと頑張りますかー。


「今度もまた働くのか……転生してまで社畜って、どんな罰ゲーム?」


マリアンヌは無言でサムズアップした。

その笑顔が、なぜか背筋を寒くさせるのは気のせいじゃない。

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