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X-11 帝姫候補、都市を編み直す

グランディール領都、古都グランディア・行政庁

視点:エリシア・11歳


「まず、銀行を作ります」


その一言で、会議室の空気が止まった。

領都の商人たち、行政官、ギルド代表、そして父。

全員が、11歳の令嬢の発言に一瞬沈黙した。


「資金の流れを可視化し、信用取引を導入することで、商業活動の効率は飛躍的に向上します。“金を持つ者”ではなく、“金を動かせる者”が都市を支えるべきです」


「……エリシア、お前、11歳だよな?」


「はい。ですが、金利は年齢で動きません」


父がそっと胃薬を飲んだ。


──改革は、銀行の設置から始まった。

領都中央に「グランディール信用組合」が設立され、商人たちは初めて“預ける”という概念を手に入れた。




次に、私はスラム街へ向かった。

そこは、領都の影。

貧民と日雇い労働者が密集し、衛生も治安も崩壊寸前だった。

まあ、地球にも未だに存在するからね…大国の永遠の課題ってところか。


「マリアンヌ、調査報告を」


「はい。居住者数は推定8,200名。うち、労働可能人口は約5,800。識字率は低く、やはり病気の蔓延率は高めですね」


「よろしい。公共事業に動員します。まずは下水道の整備。次に、アパルトメントの建設。“住まいの安定”は、“秩序の安定”に直結します」


「貧民の方々には、職業訓練と医療支援も同時に提供すべきかと」


「当然ね。あと、彼らの支援を専門に扱う役所を新設します。“福祉庁”とでも名付けて、領都行政の一部として組み込むわ」


──商業ギルドとの交渉は、予想以上に難航した。

彼らは変化を嫌い、スラムの廃止に反対した。

「安価な労働力が消える」だの、「治安維持に金がかかる」だの。


私は、静かに言った。


「“安価な労働力”は、“不安定な経済”の別名です。秩序ある都市は、長期的に利益を生みます。あなた方の利益を“今月”ではなく、“10年後”で考えなさいな。目の前の利益だけを求める商人が長続きしないのは、あなた方が一番よく解ってらっしゃるのでは?」


ギルド代表は黙った。

そして、条件付きで協力を承諾した。


──半年後。 スラム街は廃止された。

代わりに、整備された下水道と、白壁のアパルトメントが建ち並ぶ。

貧民たちは職業訓練を受け、子どもたちは識字教育を始めた。


「お嬢様、福祉庁の初期運営は順調です。住民の定着率も高く、犯罪率は半減しました」


「よろしい。都市は、“見た目”ではなく、“構造”で評価されるべき。そして構造は、人の尊厳から始まるのよ」


父は、アパルトメントの前で娘を見つめていた。


「……エリシア、お前、ほんとに11歳か?」


「はい。でも都市整備は、年齢で止まりません」


「くうっ…そこがまたかわいい……!」


こうして、グランディール領都は生まれ変わった。

銀行が金を動かし、福祉庁が人を支え、都市が秩序を得た。



3週間後

グランディール領都・福祉庁

視点:職員たち(と少しマリアンヌ)


「……あの、あの子、誰ですか?」


「えっと……お嬢様の侍女……マリアンヌさん。10歳らしいですよ」


「10歳で、あの資料整理速度……? しかも敬語が完璧……?」


「あと、さっき“忠誠とは庁舎の空気を整えることです”って言ってた」


福祉庁設立から三週間。 職員たちは、日々の業務と理想の狭間で奮闘していた。

そこに現れたのが、完璧なメイド服姿の少女――マリアンヌ・ド・リュミエール。

年齢は10歳。だが、動きは軍人。言葉は外交官。忠誠心は神話級。

そして腰には、なぜか暗器が6本。

身体がまだ小さいため服の中に入りきらないのだ。


「本日の貧民支援物資、配布リストはこちらです。お嬢様のご意向により、栄養価と保存性を優先しております。“じゃがいもは信頼できる”とのお言葉です」


「じゃがいも……信頼……?」


「また、識字教育の教材は“エリシア式基礎読解”にて統一されました。勿論お嬢様のご監修ですので、誤字脱字は存在しません。万一見つかった場合は、庁舎の空気を入れ替えます。※物理的に」


「えっ……えっ……」


職員は理解が追い付かない。

マリアンヌは、資料を配りながら腰の暗器を微調整していた。

職員たちは気づいた。

彼女は、資料の重みと暗器のバランスを同時に管理している。


「マリアンヌさん、あの……暗器は、何のために?」


「庁舎の秩序維持のためです。書類の紛失、報告の遅延、じゃがいもの軽視――  いずれも、即時対応が必要です」


「じゃがいも軽視で暗器が飛ぶの……?」


「飛ばすかどうかは、お嬢様のご判断次第です」


その日、福祉庁の業務効率は前日の1.8倍に達した。

職員たちは疲労し、マリアンヌは微笑み、 エリシアは庁舎の窓から静かに帰宅する職員達を見下ろしていた。


「……マリアンヌ、庁舎を制圧したわね」


「お嬢様のご威光があれば、庁舎など造作もございません。なお、暗器は未使用です。本日は平和でした」


「よかった。じゃがいもに血がついたら、流通に響くから」


「はい。じゃがいもは、清潔が基本です」


「ただ、職員に週休二日だけはしっかりと取らせて。あと残業は2時間まで。」


「畏まりました。」


こうして、福祉庁は忠誠心と暗器によって再編された。

職員たちはマリアンヌの背中に敬礼し、 じゃがいもは信頼され、庁舎は今日も平和だった。

たぶん。


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