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X-9 麦畑の危機と、帝姫の即応

グランディール領・南部穀倉地帯

視点:エリシア・10歳


「報告です! 南部麦畑に魔物群襲来! イナゴ型、推定1000!」


──その報告を受けた瞬間、私は帝姫教育の午後講義を中断した。

麦畑は領地の心臓。帝国の食糧庫。

その損失は、経済だけでなく政治にも波及する。


「マリアンヌ、対魔物対応プロトコル第3式を。防衛隊の配置と、魔物誘導用の音響装置を準備して」


「承知いたしました。魔物の行動パターンは群れ型、神経伝達による同期性が高いため、音響による分断が有効かと存じます」


「よろしい。麦畑周辺には防炎結界を展開。魔物の死骸は肥料に転用できるか、分析班に回して」


「既に土壌班に連絡済みです。たんぱく質含有率が高ければ、芋畑への転用も可能かと」


「芋に混ぜるのはやめて。食欲が死ぬから」


さすがに昆虫食は遠慮したい。すんげータンパク質高いらしいけど。

マリアンヌは頷き、メイド服の裾を翻して走り出した。

彼女は9歳となった。だが、忠誠心と実務能力は成人並み。

私の指示を、誰よりも早く、正確に実行する。


その日、私は10歳にして領地防衛の指揮を執った。 相手は虫だけどね。

向かってくるイナゴはたったの千匹くらい、けど大きさが違う。これでも魔物の一種で、一匹で小型犬くらいの大きさがある。

帝国のほぼすべての農地で、こいつらの被害に毎年のように悩まされている。


小麦の農地を任された時から、私はこのバッタ型魔物の研究を重ねてきた。

彼らの天敵はとある森に生息する蜘蛛型の魔物で、解決を導き出すきっかけとなったのは、巣を作る際に糸を出し、その時同時に発声する特有の鳴き声?糸の発射音?にあった。


イナゴ達は食欲を満たした後、森へと移動し繁殖行動に移ろうとする。そこをこの蜘蛛たちは群れで大きな蜘蛛の巣をいくつも作り、数百を超えるイナゴを待ち伏せて巣にかけ捕食する。


そんな蜘蛛の鳴き声がこのイナゴにとっては非常に嫌な音らしい。

天敵の鳴き声だからね。そりゃ本能で逃げるわな。


つーわけでその鳴き声に含まれる一定の周波数による音響が非常に有効で、食欲を満たさんとする興奮状態であってもその音を避ける傾向があることを発見した。


そうして魔物の群れはこの年から導入された音響装置によって分断、誘導され、 冒険者と領兵混合で編成された防衛隊とマリアンヌの“物理的説得”により、麦畑の損失は最小限に抑えられた。


「お嬢様、魔物の死骸から抽出した成分に、土壌活性化の効果が確認されました。肥料としての再利用、可能です」


「よろしい。損失ゼロは無理でも、損失の資源化は可能。“災害は、資源の形を変えてやってくる”――それが帝姫候補の視点よ」


その夜、父が書斎に顔を出した。


「エリシア……お前、10歳だよな?」


「はい。ですが、麦畑は年齢で守れません。戦略と即応力です」


「くうっ……そこがまたかわいい……!」


こうして、グランディール領は魔物の襲撃を乗り越えた。

麦は守られ、芋は無事で、マリアンヌは死骸に礼を言っていた。


「本日はご来訪、まことにありがとうございました。次回は、肥料としてのご活躍をお祈り申し上げます、イナゴ丸様」


「イナゴ丸て…」


帝国の未来は、今日も少しだけ虫くさく、そして平和だった。

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