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1-9 湿気と虫と孤島の洗礼

帝国歴705年:6月5日

南方航路、孤島修道院前の桟橋にて。


「……ここが、次の転勤先か。」


私は船の手すりに手を置きながら、目の前の景色を見て絶句した。

熱帯雨林に囲まれた孤島。空気は重く、湿気が肌にまとわりつく。

遠くから聞こえるのは、鳥の声ではなく、虫の羽音。しかもデカい。音が重低音。


「スローライフって、こういう意味じゃないんだけどなぁ……」


マリアンヌが隣で無言のまま、虫除け魔道具を起動している。

腰には虫用の小型暗器。

え?虫用?虫用の暗器なんてものがあんの?

いや、そもそも暗器って虫に使うものじゃないよね?


「エリシア様、まずは上陸前の安全確認を。毒虫、毒草、毒蛇、毒霧、毒信仰……」


「最後のやつ、宗教的にアウトじゃない?」


船を降りると、桟橋は苔むして滑りやすく、修道院までの道は獣道。

案内役の修道女は、なぜかフードを深く被っている。

湿気で髪がまとまりませんとかいうレベルじゃない。顔が見えない。


「ようこそ、孤島修道院へ……」


「え、ええ、ありがとうございます。……あの、顔を見せていただけますか?」


「……虫が……」


「虫が?」


「……顔に……」


「顔に虫が!?」


マリアンヌが即座に布を取り出し、修道女の顔を拭う。

出てきたのは、目の下にそばかすではなく虫刺されの跡が無数にある少女。

なんとも痛々しい・・じゃなくて痒々しい。

ウナ・〇ーワ塗ってあげたい。

あ、目の下にウナ・〇ーワはきついな。

普通に死ねる。

ああー、これはもう、信仰よりも医療が必要なレベル。

マラリアってこの世界にもあるんだっけ?

東南アジアに海外出張し予防接種までしたことを思い出す。


修道院に到着すると、建物は苔と蔦に覆われていた。

石造りの壁は湿気で崩れかけ、窓は曇り、扉は軋む。

中に入ると、空気が重い。湿度が魔力を帯びているんじゃないかと思うほど。


「……うん、これはひどい。前回の修道院が☆野リゾートに見える。」


「予想以上ですね。」


「いや、予想通りだよ。むしろテンプレ通り。なろう小説の“孤島修道院編”って、だいたいこんな感じ。」


修道女たちは、聖女ミレーネの肖像画の前で祈っていた。

その肖像画、なぜか金色の額縁に、背景が虹。

しかも、聖女が手にしているのは……ハート型のステッキ?なんやこれ?魔法少女か。


「……マリアンヌ、これ、信仰というより、アイドル崇拝・・・推し活じゃない?」


「はい。教義の歪みが確認されました。」


「デスヨネー。」


私は荷物を置き、椅子に腰掛けた。

ギシギシと音を立てる椅子に、私のスローライフの夢がまた軋んでいく。


「さて、どうするかな……。あーあ、また働く羽目になりそうだ。転生してまで社畜って、どんな罰ゲーム?」


マリアンヌは無言でサムズアップした。

その笑顔が、なぜか背筋を寒くさせるのは気のせいじゃない。(孤島初)

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