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X-8 設計と継承と、12歳の決意

グランディール公爵邸・書庫

視点:エリシア・10歳


「……兄様、穀倉地帯の水路税、来月から廃止するわ。 代わりに“水路維持協定”を導入。税じゃなくて、領民参加型の維持制度。“自分たちで守ってる”って思わせた方が、長持ちするから」


私は地図を広げながら言った。

兄・トリスタンは、書庫の窓辺で静かに聞いていた。

彼は12歳。学院入学を控えた、普段の訓練で既に細マッチョの超イケメンになる片鱗を見せている。

影は薄いけど。だが、私の話にはいつも真剣だった。


「……なるほど。税を取るより、協定で意識を育てる。エリシアの政策は、いつも“人の心”を読んでるね」


いわゆる農業用水路の民営化だ。

国が用水路の維持費として農家から税を取る代わりに、維持管理を農家にまかせて、その代わり税を廃止する。

この先農家は私が考案した様々な農業改革で大分儲けが出る形になるから、用水路の維持管理、また増設等も容易くなるだろう。公共工事を終えたスラム民の再就職先のひとつにもできる。

国の監査や監視は必要だけどね。


「前世、企業コンサルだったから。人の心と財布の動きは、だいたい連動してるのよ」


家族とマリアンヌには、私が前世持ちだということは伝えている。

トリスタンは、地図を見つめたまま静かに言った。


「企業こんさる?…がどういうものかは知らないけど…僕は、君みたいに設計や、目の覚めるような改革はできない。でも、それを理解して維持ならできる。君が作ったものを、壊さないように。誰かが崩そうとしても、僕がその盾になろう。」


「…ちょっとかっこいいわねそれ。でも、盾って言うなら、もう少し影を薄くしない方がいいと思う」


「……学院で、もう少し“目立つ”努力をしてみるよ。でも、目立つためじゃなくて、守るために学ぶ。  君の政策を理解できるように。そして未来永劫、維持できるように」


私は兄の言葉を聞きながら、静かに紅茶を飲んだ。

この人は、嫉妬しない。競わない。 ただ、守る。

そしてそのことに限定するなら、私より遥かに優秀だ。

それはこの私にとって――とてもありがたい存在だった。


「じゃあ、学院で“維持の技術”を学んできて兄様。私はその間に、もう少し“壊れにくい設計”を考えておくわ」


トリスタンは、少しだけ笑った。


「君が設計して、僕が守る。それが、このグランディールの形になるといいね」


こうして、エリシア10歳の政策会議は終了した。

設計と継承、数字と心―― グランディール公爵領は、今日も静かに未来へ向かっていた。

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