表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/69

X-6 空と芋と、飛竜便のはじまり

グランディール邸・書斎

視点:エリシア・9歳


「父上、物流改革の提案があります」


その日、私は書斎の扉をノックもせずに開けた。

帝姫教育の講義を終え、じゃがいも畑の視察を終え、次に着手すべきは――領内物流、

ひいては帝国内物流の根本的な見直しだった。


「……また何か始めるのか? 昨日は“芋で世界を救う”って言ってたぞ」


「今日は“空で世界を制する”です」


父がペンを落とした。

最近、よく落とす。


「空……?」


「ええ。空と物流を制する者は、世界を制します」


私はばさっと手持ちの地図を広げた。

グランディール領は広い。馬車では限界がある。

腐敗率、遅延、盗難――地上輸送にはリスクが多すぎる。


「そこで、空路です。ワイバーンを卵から育て、飛行輸送に活用する。名付けて“飛竜便”。私が16歳になるまでに開通させます」


父は椅子に沈み込んだ。

その顔は、驚愕と誇らしさと胃痛の三重奏だった。


「……お前、9歳だよな?」


「はい。ですので、卵の孵化から調教、飛行訓練、積載設計まで、7年あれば十分です。初期投資は高いですが、長期的には馬車隊の維持費を下回り、逆に削減した分の馬車隊を鉄道馬車化させることが可能です。」


飛竜便計画書と鉄道馬車計画書、両方渡す。

それを見て父は顎に手をやりウンウン唸りだす。


「……ワイバーンって、あの空の飛ぶトカゲだよな?あと、…鉄道馬車?」


「トカゲではなく、飛竜です。感情制御が難しいですが、忠誠心は高く、“芋を運ばせる”程度なら問題ありません。鉄道馬車のほうはまだ先の話になります。飛竜便を兼ねる騎手のパトロールによって領内の治安がある程度安定すれば、各所までのレール敷設が可能となります。」


「芋を空輸するのか……」


「芋だけではありません。薬品、書簡、緊急物資。はては隠密や特殊訓練を積んだ兵士に至るまで。帝国の“即応力”を支えるインフラになります。鉄道馬車もしかりです。飛竜よりは遅いですが、現状の馬車便の1.3倍の速さと、1.5倍の積載輸送が見込めます。」


「い…いんふら?…ハァ…」


父は机に突っ伏した。

その背中は、もはや諦めではなく、感動だった。


「……エリシア。お前は、何者だ?」


「父上の娘です。そして、帝国の物流を空に押し上げる者です」


「くうっ…そこがまたかわいい……!」


こうして、飛竜便構想は正式に始動した。

ワイバーンの卵は、地下温室に設置され、 マリアンヌが毎日「おじょうさまのために、すこやかにそだってくださいませ……いもたろう」と語りかけていた。

いもたろうて。ヤメテ。


帝国の未来は、今日も少しだけ空を見上げ、そして芋くさく、平和だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ