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1-6 静かな革命 ― 修道院の空気が変わる

食休み、午後の紅茶を一口。

うん、泡立ってない。水質改善、成功。

これだけで幸福度が3割増しになるのだから、文明って偉大だ。


「マリアンヌ、寝具の搬入は?」


「予定通り、3時ごろに飛竜便で到着します。公爵領からの支援物資となります。寝具一式、洗濯用具、衣類、その他生活用品が含まれています。」


「さすがお父様。娘のスローライフのために、物流まで完璧。……でも、スローライフって物流から始まるものだったっけ?」


「?さあ?」


マリアンヌの無表情な返答に、私はそっとため息をついた。

この修道院、改革が進むにつれて、空気が少しずつ変わってきている。


物資到着。

グランディール公爵領が誇る飛竜便。

今回は全8頭と騎手8名。

卵から育てているので皆従順でかわいい。

驚きと同時にグランディール領の騎士でもある騎手達の精悍さに頬を染める修道女達。

俗世と離れて生活すると、イケメンなんてめったに見れないからね。

そしてドヤ顔の私。

ふふふ。9歳の時お父様に物流と空を制する者は世界を制す。と言ったのは私です。


・・・マリアンヌ、今受け取ったそれはなんですか。え?新しい暗器?ソウデスカ。


その後、搬入を終え帰っていく飛竜、騎手達を見送り、修道女たちと一緒に寝具の交換作業を行った。

新しいマットレス、新しい枕、新しいシーツ。そして新しい修道服と下着。

そして生理用品。これ大事。女性ばかりだからね。

黄ばみも染みもない。ふわふわで、清潔で、寝ることが「修行」ではなく「休息」になる。


「エリシア様、ありがとうございます……」


修道女の一人が、涙ぐみながら頭を下げる。

いやいや、泣くほどのことじゃないよ。

でも、前の寝具がどれだけ地獄だったかを考えると、泣くのもわかる。


「これで、夜にちゃんと眠れるようになりますね。」


「ええ。信仰は、健康な体に宿るものですから。」


”夜も眠れない”から”夜しか眠れない”に変わるのだ。

でも内心では、"これ、完全に福利厚生の改善だよね?"と、社畜センサーがまた反応していた。


一休みして、修道女たちの業務フローの見直し。

シフト表を作成し、役割分担を明確化。

祈祷、掃除、調理、洗濯、教義学習――それぞれの時間と担当を整理する。


「これで、無駄な重複や空白時間がなくなります。皆さんの負担も減るはずです。」


「すごい……まるで、軍隊のような効率です。」


「いや、軍隊じゃないから。修道院だから。信仰施設だから。効率は大事だけど、心の余裕も忘れないでね?みんなはまだ体力がついていないのだから、最初は無理なら休み休みやってもいいし、他の日にずらしてもいいのよ?周りのフォローをもらった上でね。」


修道女たちは、大分笑顔を見せるようになってきた。

昨日までの沈んだ空気が、嘘のように軽くなっている。


夕方、私は紅茶を飲みながら、窓の外を眺めた。

中庭では、修道女たちが草を刈り、畑の整備を始めている。

噴水の水も、魔道具のおかげで澄んでいる。

石像の首は……まあ、まだないけど。あとで接着剤でなんとかしよう。


「……これだよ、これ。私が求めていたスローライフ。紅茶と、静かな時間と、ちょっとしたデュラハン。」


マリアンヌが隣に座る。


「明日は、教義の再教育ですね。信仰と実務の両立を目指す講義を。」


「うん、そうだね。……でもさ、これって完全に仕事だよね?転生してまで社畜って、どんな罰ゲーム?」


マリアンヌは無言でサムズアップした。

その笑顔が、なぜか背筋を寒くさせるのは気のせいじゃない。(本日3度目)

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