表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/69

X-5 じゃがいもと帝姫と、ひらがみメイド

グランディール領・南部穀倉地帯

視点:エリシア・8歳


つまらない帝姫教育の午前講義が終わると、私は即座に領地へ向かった。

今日のテーマは「じゃがいもによる食糧戦略の再構築」。

麦は輸出、芋は内需。

帝国の胃袋を守るのは、炭水化物の最適化である。

小麦に依存しすぎなんだよ。この国というか世界は。

だから飢饉なんてものが時節起こる。

もっとバリエーション増やしていこうよ。芋とか、米とか、蕎麦とか、米とか。

うう、米食いてえ。


「マリアンヌ、資料は?」


「はい、おじょうさま。じゃがいもしゅうかくデータ、きょねんぶんまでそろえてございます」


「よろしい。農民たちに“芋は敵ではない”と伝える準備を」


「かしこまりました。わたくし、いのちをかけてじゃがいもをまもります」


「命はかけなくていい。芋は命じゃない」


「ですが、わたくしにとっては、いのちよりたいせつな、おじょうさまのごしじんもくでございます」


「ご神木じゃない。ご指示」


「ごしじ……はい、そちらでございます」


とりあえず生育の比較的楽なじゃがいもを広めることにする。

マリアンヌは、完璧なメイド服姿で資料を抱えながら、 畑のじゃがいもに向かって一礼した。


「じゃがいもさま、どうかおじょうさまのために、すこやかにそだってくださいませ……」


(この子、忠誠心の向け方がちょっとズレてるな)


その日、私たちは農民代表を集めて「じゃがいも推進説明会」を開催した。

私は収穫周期、保存性、調理法の多様性を数値で示し、 マリアンヌは「じゃがいもはやさしいです」と感情面を補強した。


「おじょうさまのごけいかくは、じゃがいもによって、せかいをすくいます」


「世界は救わない。領地の食糧事情を改善するだけ」


「それはすなわち、せかいのはじまりでございます」


農民たちはぽかんとしていたが、資料と情熱のコンボにより、 じゃがいも畑の拡張が正式に決定された。ちゃんと芽を取って火を通してから食べてね。


「マリアンヌ、次は流通ルートの再設計よ。馬車隊の動線を最短化して、腐敗率を下げる」


「はい。わたくし、じゃがいもをだいじにあつかうよう、ぎょしゃのかたに“いのちのように”とつたえてまいります」


「命じゃないって言ってるでしょうが」


こうして、帝姫教育のかたわらで進めた領地改革は、8歳と7歳のコンビによって、着実に成果を上げていた。


帝国の未来は、今日も少しだけ芋くさく、そして平和だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ