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第一章 プロローグ

初投稿です。宜しくお願い致します。

「――よって、公爵令嬢エリシア・フォン・グランディールは、聖女への侮辱、暴行、公務妨害の罪により第一皇子との婚約破棄を受け断罪とし、修道院送りとする」


その言葉が響いた瞬間、帝都、学院の大講堂に集まった貴族子女たちがざわめいた。


誰もが予想していた結末だった。いや、予想させられていたと言った方が正しい。

聖女ミレーネの涙ながらの告発、第一皇子レオニスの冷たい視線、そして教会関係者の「神の意志」という便利な言葉。

すべてが、私を悪役令嬢に仕立て上げるために用意された舞台だった。


おお。テンプレだな。

『悪役令嬢断罪セット』のフルコースだねこれ。

なろう小説のプロローグでよくある、後にざまぁ展開がやってくるやつだ。


私は深紅のドレスを纏い、静かに立ち尽くしていた。

表情は変えない。変える必要もない。

今年で私は17歳。17歳で修道院送り。

狙い通りだ。苦労した甲斐があった。

だって、これでようやくスローライフが始まるのだから。


「……ふふ」


誰かが私の笑い声に気づいたのか、ざわめきが一瞬止まった。


法衣を着こなした聖女ミレーネが、涙を拭いながら私を睨む。

その聖女の肩に手を置いている白い儀礼服の男、第一皇子レオニスはどこか不安げな顔をしている。


ん?なんでだ? おまいらが望んだ結末だろうに。

君たちにとってここは笑うところでは?


「エリシア様、最後に何か申すことはございますか?」


裁判官役の教会司祭が問いかける。

私はゆっくりと口を開いた。


「申すことは、そうですね……。あえて言うなら、"お疲れ様でした"でしょうか」


「……は?」


「聖女様の涙ながらの演技、皇子殿下の見事な責任転嫁、そして教会の皆様の迅速な断罪。いやはや、見事な連携でした。まるで初等部の舞台劇のようで、感動すら覚えましたよ。いや、感動というより笑いを堪えるのが大変でしたけれど。」


ざわめきが再び広がる。

ミレーネの顔が引きつり、レオニスは都合が悪くなった子供のように目を逸らす。

司祭は咳払いをして、私の言葉を無視しようとした。


「それでは、エリシア・フォン・グランディールを――」


「ただーし!…おほん、…ひとつだけ確認させてください。」


私は司祭の言葉を止めて一歩前に出る。

その瞬間、ピシリと講堂の空気が変わった。


「えー…婚約破棄と修道院送り、ということは……つまり私はもう帝姫教育も、皇子殿下の公務補佐も、聖女様のご機嫌取りも、すべて放棄してよろしいということですね?」


「!っ……そ、それは……」


「ありがとうございます。ようやく、ゆっくりと紅茶を飲みながら読書に耽る日々が始まるのですね。ああ、夢にまで見たスローライフ…」


私のとんでもない発言に狼狽える司祭。


「な…何を仰って…」


私は皆を意味ありげに順番に睨みながら続ける。


「これにてわたくしは、神への奉仕と紅茶と読書と昼寝三昧…なので…これからは国政のことも!」


「ひっ…」


目の前の司祭はビクッとして、聖女のほうに助けを求めるように目を動かす。

私も聖女のほうに体を向けつつ言い放つ。


「国民のことも!」


「くっ…」


聖女ミレーネはこれでもかというくらい私を睨み返している。

すぐ横にいる皇子にも、


「皇族のことも!」


あら、レオニスぼっちゃん完全に顔を横に向けてますね。逃げたな。

そして最後に私は落ち着きを取り戻し、司祭に向き直る。


「…何も考えなくて良い、神のことだけを考えれば良い、俗世の誰にも邪魔されない至福の時間……感謝いたします。」


私は深々と頭を下げた。

…その私の姿に、誰もが言葉を失っていた。


講堂を出た私は、学院の中庭を歩いていた。一度寮に戻り退寮の準備をしなければ。

後ろから足音が近づく。

振り返るとそこには我が公爵領直属の隠密であり、幼馴染であり、10年来の親友でもある1歳下の専属侍女、マリアンヌがいた。

茶髪ショートカットのロリ巨乳。かわいい。

今の体が男ならば、確実に手を出している。

きっちりとしたメイド服を着ていて、日本であったならメイドというよりも背の低いゴスロリかな。

服の下には何十もの暗器が隠されている。

もちろん胸部にも・・・あれ?今更だがもしかして胸部そのものが・・・なんてことあるのか?

・・・やめよう。怖くて聞けない。

マリアンヌは私の前世が男って知ってるからな。


「エリシア様、よかったですね。ようやく自由です。」


「ああ、ようやくだよ。……でも、少しだけ気になることがある。」


「気になること?」


「聖女様の演技力は、まー及第点として。皇子殿下の他力本願ぶりは相変わらず。教会の断罪は予想通り。でもなぁ――」


私は空を見上げた。


「この世界、どうも"働かせようとする力"が強すぎる気がするんだよねぇ。」


「……それは、転生者の勘ですか?」


「ああ、・・・・長年社畜やってたおっさんの勘かなぁ。嫌な予感しかしないし、この体にこびりついた社畜センサーがビンビン反応してる・・・。」


マリアンヌは微笑んだ。


「ご心配なさらず。私も修道女として同行します。エリシア様のスローライフを守るために。すでに旦那様とラファエロ猊下よりそのように指示が来ておりますので。」


「あ、やっぱそうなのね。助かるわー。……なぁマリアンヌ、これからも護衛してくれるのは嬉しいけど、暗器を沢山持ち歩くのはやめてくれない?修道院って、戦場じゃないんだか――」


「それは無理ですね。」


即答かよ。


「デスヨネ―。」


私はため息をついた。

でも安心はした。

マリアンヌが言う旦那様とは公爵である私の父のこと。

ラファエロ猊下とはこの帝国の教会で8人いる枢機卿の一人で、父とは学院時の同級生、私とも親交がある気のいいおばちゃんだ。

今回の事で色々と手を回してくれたんだろう。

ついでに私が行く修道院も比較的楽なのを選んでいてくれていると助かるなぁ。


後から聞いた話だが、聖女ミレーネは強く国外追放を望んだようだけど、父とラファエロ猊下で修道院送りに留めたらしい。すばらしいね。


その夜、今は領地に居る父からの手紙が届いた。


「皇帝への抗議と共に、修道院での生活を支援する。必要な物資はすべて送る。困ったことがあれば、マリアンヌに言え。」


父らしい、過保護な文面だった。

帝姫候補に戻されるのは御免被りたいので、皇帝陛下への抗議はほどほどにと後で返事を書いておこう。

今世ではもうこれ以上仕事はしないと決めたのだ。

私は厳しくも穏やかな修道院で、転生させてくれた神に一生感謝を捧げながら怠惰を貪るのだよ。


私は手紙を読み終え、紅茶を一口飲んだ。

まだ学院にいるのに、もう修道院の空気を感じているような気がした。


「さて、スローライフの始まりだ。」


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