表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/32

継続は力なりだよね⑧


 三日間。

 私はただひたすらに歩き続けた。

 擬似太陽が昇っては沈み、森を照らし、また闇を落とす。

 秘境ではあまり感じなかった「時間の流れ」を、今ははっきりと肌で感じていた。


 自動マッピングは脳裏に広がり、迷宮の森の形を少しずつ描いていく。

 

「うぅ、これがなかったら、とっくに迷ってた自信しかないよ……」

 

独り言で自分を落ち着けながら、一歩一歩を踏み締めた。


 モンスターは避けられるものはすべて避けた。

 気配遮断を保ち、千里眼で先を見通し、危険を察したら迂回する。

 どうしても避けられないときだけ、閻魔で弱点を撃ち抜く。

 戦いは最小限。これが、四年間秘境で磨いた、生還する為のルールだ。




 二日目の夜。

 足は鉛のように重く、思考も鈍り始めていた。

 「だめだぁ……もう限界。どこかで寝なきゃ」


 大岩の陰を選び、腰を下ろす。

 まず千里眼で周囲を確認。黒翼鳥や蛇は遠い位置。接近してくる気配はない。

 次に気配遮断を展開し、最後にシールドを張る。


 「これで……少しは安心できるよね」


 白法のマントのフードを深く被り、背を壁に預ける。

 眠りは浅く、音ひとつで目が覚める。

 それでも、ほんの数時間の仮眠で体はわずかに軽くなった。

 秘境の小屋がどれほど守られた場所だったか、痛感する瞬間でもあった。




 三日目の朝。

 擬似太陽が森を照らす中、再び歩き出す。

 脳裏の地図はつながり、複雑な森が一枚の絵となっていく。


 「……そろそろ、見つかってもいいはず」


 焦りを抑えつつも、胸の奥で期待が膨らんでいた。




 やがて、木々が途切れ、空気が変わる。

 そこに現れたのは、岩壁に埋め込まれた巨大な扉。

 苔むした表面には、古代紋様のような刻印がびっしりと走っていた。

 淡く光が脈動し、生き物のように扉全体を震わせている。


 「……これって……」


 息を呑む。

 秘境の中から千里眼で見たことは一度もない。

 でも、この圧は間違いない。

 ボス部屋の扉。


 「三日かけて……ようやく見つけたよ!」


 胸が高鳴る。けれど同時に、胃の奥が冷たく重くなる。




 私は深く息を吸い、冷静に頭の中で選択肢を並べた。


 ひとつは――この扉を越え、ボスを倒すこと。

 10階層ごとに存在する転送装置は、必ずボス部屋の先にある。

 倒せば最短で地上に戻れる。

 ただし失敗すれば、そこで終わりだ。


 もうひとつは――310階層まで降りること。

 転送装置は十階層ごとに必ずあるという。

 ボスを避け、319階層から310階層まで降りきれば、そこから地上へ戻れる。

 だが九階層分の探索と戦闘。消耗は計り知れない。


 最後に――ランダムBOXで帰還アイテムを狙う方法。

 けれど私は四年間、何百ものランダムBOXを開けても一度も出なかった。

 ――これは現実的じゃない。除外。


 「結局……二択、か」




 扉を見上げる。

 苔むした刻印は淡い光を脈動させ、呼吸するようにこちらを圧してくる。

 その先に待つボスは、きっと319階層で相手したどのモンスターよりも強大。

 「……閻魔で、倒せるのかな」


 閻魔は何度も試した。

 巨大蛇の逆鱗を一撃で貫いた。

 黒獣狼の頸椎を穿った。

 狙えば外さない精度もある。

 けれど――それでも一撃で沈む保証はない。


 「もし倒せなかったら……?」


 立ち止まる。

 外に出たばかりで、まだ三日しか経っていない。

 焦って挑むべきじゃないのかもしれない。


 一方で、310階層まで降りる道も思い描く。

 無駄な戦いを避け、気配遮断と自動マッピングで進めば、可能性はある。

 でも九階層分。

 遭遇は避けきれず、戦闘は必ず増える。

 長期戦での消耗は、短期決戦よりも危険かもしれない。


 「短期決戦か、長期探索か……」


 考えれば考えるほど、答えは見えなくなる。

 ただ一つだけはっきりしているのは――どちらにせよ、どちらかをクリアしなければ、帰れないということ。




 私はマントのフードを深く被り直し、胸元のポーチを軽く叩いた。

 癒しの水は数百本以上、十分すぎるほどある。

 魔力量も4320。


 「……できるはず。私なら」


 声に出すことで、少しだけ迷いが和らぐ。

 けれどまだ決断は下せない。


 扉の前で立ち尽くす。

 圧力に押し潰されそうになりながらも、口角を上げて小さく笑った。


 「生きて帰るんだ……」


 その言葉だけを胸に、私はしばし立ち尽くした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ボス行くんです??嫌な予感しかしない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ