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白の亡霊(15)


 セーフティーエリアの中心。

 いつもは静けさを守る広場に、十台の装甲車アイギスが整然と並んでいた。


 漆黒の装甲に走る銀のライン。

 車体に刻まれた紋様が淡い光を帯び、周囲の魔素に呼応するかのように低い唸りを上げている。

 モンスター探知、展開シールド、ジャミングシステム――最新の技術を結集した“人類の盾”


 「……これが、アイギス……」

 

冒険者の一人が息を呑んだ。


 その光景を前にしても、ブラックランクの三人は微動だにしない。

 りうは腕を組み、涼しい顔で一歩前に進み出た。

 

「時間は無駄にできないわ。早く走らせましょう」

 

 戦場を欲する光が、その銀の瞳に宿る。


 カレンは黒衣の上にコートを羽織り、清楚な笑みを浮かべながらも、指先で髪を払った。

 

 「ファンのみんなの前より、こっちの方が緊張するかもね……でも、やることは変わらない。歌うように、仲間を守るだけ」

 

 その声音は澄んでいて、張り詰めた空気を一瞬和らげる。


 そして――アルザス。

 言葉を発することなく、ただ黙然と剣を背にし、先頭のアイギスの車体に歩み寄った。

 その背中を見ただけで、随伴する冒険者たちは無意識に息を呑む。


 支部長が一歩前に出て、短く告げる。

 

 「――作戦開始。篠原副支部長と未桜の救出を最優先とする」


 その瞬間、アイギスのエンジンが低く唸りを上げた。

 車体の符が一斉に光を帯び、魔力を動力へと変換する轟音が響き渡る。

 まるで地を揺らすような振動に、周囲の冒険者たちは背筋を伸ばした。


 「全車、進軍開始!」


 号令と同時に、十台のアイギスが一斉に走り出す。

 重装甲の巨体とは思えない加速で、迷宮の闇を切り裂くように進む。

 シールドが展開され、光の膜が前列を覆った。


 ――国家最高戦力。

 ブラックランクとそのクラン。

 そして最新鋭の兵装アイギス。


 救出と、未到達階層の更新を賭けた史上最大の突入が、いま始まった。


 ―110階層セーフティーエリアを出てから数時間。


 アイギスの列は猛進を続けていた。

 通常であれば群れを成すモンスターとの交戦で足止めを食らうはずの道中を、信じられない速度で切り抜けていく。


 その理由はただ一人。


 先頭のアイギス、その車体の上に立つ漆黒の剣士――アルザス。

 風を裂くように髪を揺らし、ただ黙然と前方を見据える。


 突如、通路を埋めるように巨躯の魔獣が躍り出た。

 唸り声と共に、岩壁を揺らすほどの質量が迫る。


 だが、アイギスの速度は一切落ちない。


 「……任せろ」

 

 低く呟いた瞬間、アルザスの姿が揺らいだ。


 ――ザシュッ!


 一閃。

 剣光が閃いたかと思えば、巨獣は断末魔を上げる間もなく、首筋から真っ二つに裂けて崩れ落ちた。

 その切断はあまりにも鋭く、まるで最初からそこに“斬られるための線”が存在していたかのようだった。


 「側面は任せた」

 

 淡々と告げる声。


 左右から飛び出す中型モンスターを、アイギス随伴の冒険者たちが迎撃する。

 しかし、前方から迫るものはすべて――アルザスが一人で薙ぎ払った。


 飛ぶ斬撃が、急所を正確に撃ち抜いていく。

 突進してきた魔物は、気づけばその心臓を貫かれ、血飛沫を撒き散らす間もなく崩れる。


 「……速度を落とすな」

 

 淡々と、それでいて苛烈な声。


 アイギスは減速することなく突き進んだ。

 アルザスの剣が道を切り拓き、誰一人として足を止めることはなかった。


 他のブラックランク――りうとカレンは車内で静かに待機していた。

 りうは冷静に戦況を眺め、「……ふふ、やっぱり桁違いね」と小さく呟く。

 カレンは膝に手を置き、目を閉じて声を温存する。彼女にとって歌は最大の武器、決戦の場でこそ輝くものだった。


 ――八時間後


 十台のアイギスは、予定どおりに119階層のボス部屋前へ到達した。

 黒く濡れた扉の向こうからは、地鳴りのような水音が響き渡っていた。


 重厚な扉の前で、全員の呼吸がそろった。

 119階層――蒼淵竜リヴァイア・レギアの間。ここを越えられなかった年月の重みが、冷えた石肌からひしひしと伝わってくる。


 ――

 

 ナノが一歩前に出て、全員を見渡した。その華奢な体と中性的な顔立ちは、戦場の緊張の中でひときわ鋭さを帯びていた。

 視線だけが鋭く全軍を射抜いた。


 「攻めのCresCent、防御のStellaCiel。俺が統括する。ブラックランクの三人も含め、戦術は全てこちらで指示させてもらう。確実に勝つためだ。戦闘中、言葉が荒くなることもある。それでも構わないな?」


 りうが肩をすくめ、銀髪を揺らしながら小さく笑った。


 「フフッ、いいじゃん。そういうの嫌いじゃないよ。むしろ全力でやれる口実ができて嬉しいくらい」


 カレンは清楚な笑みを浮かべ、しかし瞳はきらきらと輝いていた。


 「私たちは歌で仲間を支える。どんな地獄でも……皆で生きて帰るために」


 アルザスは無言で頷き、ただ剣を抜いた。刃が青白く光を反射する。その無骨な佇まいは、余計な言葉を必要としなかった。


 ナノは頷くと、声を張り上げた。


 「ここから先は地獄だ。合図と同時に扉を開け、即時陣形展開。迷う暇はない。

 前衛第一列はStellaCiel、第二列が交代要員。側面はCresCent第二分隊で押さえろ。後衛は回復・妨害・攻撃を三手回しで循環させる。俺が統括する。

 “剣鬼”、先頭を任せる。高圧流が来たら斬って道を作れ。

 りう、初動は温存。俺が隙を開ける。合図で“放て”、その後は状況を見て詠唱を上げろ。

 カレンさん――あなたの歌が基盤だ。全軍を落とさないでくれ。

 いいな、必ず生きて超える」


 ぐっと空気が締まる。誰も反論しない。誰にも、反論する余裕などない。


 ナノが短く顎を引いた。


 「……開け!」

 

 重厚な扉がきしみを上げて開いていく……

 



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