継続は力なりだよね②
私は一ヶ月間の魔素を費やしてランダムBOXを引き続けた。金BOXからは三回引いて、すべてスキルの書だった。これで基本的にスキルの書が出るということで間違いなさそうだ。
鑑定の書【☆☆】
チャージの書【☆】
千里眼の書【☆☆】
手に入れたのはこの三種類で、どれもスキルのランク的には高くないと思われる。正直、スキルの書が手に入るとは知らなかったので、表示されている星の数で勝手に決めつけているだけだが、大きくは間違っていないだろうと思っている。
今回最初に手に入れた「鑑定」のスキル。名前の通りあらゆる物を鑑定できるスキルで、ダンジョンのアイテムや、その辺の石ころだって鑑定できる。このスキルを得て大発見したことがある。
実は、この場所に流れている小川なのだが、鑑定の結果「飲めば体力・魔力が回復する癒しの水」だと判明したのだ。さらに数本生えている木には、三十日に一度だけ桃のような実がなる。それを鑑定すると「命の果実」と出て、最大体力と最大魔力が3ずつ上がることがわかった。
「癒しの水で体洗ったりしてごめんなさい……命の果実をすりおろして食べたり、うさぎちゃんにして食べたり、ごめんなさい……」
次に「チャージの書」。これはスキルランクは低いが、私にとっては大当たりかもしれないものだった。以前、ランダムBOXから手に入れたファイアアロー、シールド、ヒールを使う際に魔力をチャージできるようになり、込めた魔力量に応じて威力や効果が増すのだ。
検証の結果、ファイアアローは赤、黄色、白、青の炎へと変化する。
必要魔力量は、赤【5】、黄色【50】、白【150】、青【300】。
攻撃手段の少ない私がダンジョン脱出を目指すうえで、必ず役立つスキルだと思う。何よりかっこいい……。
それからシールドやヒールも同じように魔力を込めれば変化するようだ。ただ、大怪我や攻撃を受ける状況がここにはないため、検証は不十分。とりあえず訓練は続けていくつもりだ。
そして何といってもメインは「千里眼」のスキル。昨日、チャージスキルの検証中に150の魔力を込めて発動した際、秘境の外まで見通すことができたのだ。魔力量に応じて見える距離が変わり、体感では1魔力につき1メートルといった感覚だった。
検証中に発覚した事実に、しばらくあたふたしてしまったのは仕方がない。
ここからが本題だ。秘境エリアは地面から十メートルほど高い岩場の上にあるということ。そして外からは岩場にしか見えず、存在がわからないということ。さらに、やはりというべきか、未知のモンスターが確認できたことだ。
見えたのは大きな蛇型のモンスター。外皮はゴツゴツとしていて、とにかく硬そうだった。じっくり観察していると、戸愚呂を巻くようなその蛇の傍らに、遥か昔に境界線から投げ込んだボウリングの球を見つけてしまったのだ。
「え、これってまさか!! 魔力は150……ううん、やっぱり300!!」
体が勝手に動いていた。右手に魔力を込めると、赤、黄、白、青と順番に炎の矢が色鮮やかに変化していく。弾けそうなほど圧縮された魔力の矢を蛇の頭部へと照準を定めると、私は迷うことなく一気に解き放った。
「絶対にはずさないんだから! 毎日、毎日、毎日……何百回練習してると思ってんのよー!!!」
激しい衝撃に右腕が跳ね上がる。周囲の酸素を焼き尽くすかのような轟音が鼓膜を揺らしながら境界線を通過する。青い閃光は巨大な蛇の頭部へ直撃し、爆発音を轟かせながらその巨体を地面へと叩きつけた。土煙が舞い、視界は悪いが、確かな手応えを感じていた。
「ひぇぇ……めちゃ痛い……いたた……」
二の腕をさすりながら千里眼で様子を伺うと、巻き上がった土煙は次第に薄れていく。ここは319階層、未知のエリア。嫌な予感はしていた。煙が消えていく中、ゆっくりと動く巨大な影が現れる。
「はは……これは苦労しそうだよ……」
私はひきつった笑顔を浮かべていた。今さらながら、めちゃくちゃ後悔している。もしモンスターが秘境エリアに侵入できるとしたら? 逃げ場はない。終わったかもしれない。テンパった私は、とっさに反対方向へファイアアローを放った。
「今まで外に撃って練習してたし、だ、大丈夫だよね」
ファイアアローは蛇とは逆方向の岩棚へ着弾し、大きな音を立てる。頭部の鱗が剥がれ落ちた巨大蛇は少しよろめきながらも、視線をそちらへ向けているようだ。数分経っても、こちらへ向かってくる様子はなかった。背中に冷たい汗が流れ、遅れて足の震えが襲ってくる。
こちらから攻撃できるということは、向こうからも攻撃できるかもしれない。今までは運よく見つかっていなかっただけの可能性だってあるのだ。
今日の出来事は次に活かさなければならない。次なんて二度と来ないかもしれないのだから。
今までにない進展と恐怖を感じた、記念すべき日になったのだった。