継続は力なりだよね
ゲーム好きなら、この状況をどう思うだろう。
真っ先に出る答えは――「最悪」だ。
でも、ゲーム好きで良かったのも事実だ。ゲームをしていなければ、私は間違いなく死んでいた。普通の人に「ダンジョン」とか「モンスター」とか「スキル」や「能力値」と言っても分からない。でも私にはゲームの知識があったから、最悪の事態だけは免れた。
私――**神崎 麻桜**は、現在ダンジョン319階層で暮らしている。理由はあとで説明するとして……何とか奇跡的に生き延びているのだ。
あ、ちなみに。公式発表されている日本でのダンジョン最高到達階層は「78階層」らしい。このまま319階層にいれば、私はここで生涯を終えることになるのだろうなぁ……。
説明が足りなかったね。
ダンジョン転移――そんな罠や装置があるんだけど、私はどうやらその現象に巻き込まれて319階層まで飛ばされたらしい。過去に二件だけ事例があったそうだけど、まさか自分が体験するなんて夢にも思っていなかった。しかも、その中でもさらに稀少な「秘境エリア」への転送。奇跡の中の奇跡だ。
秘境とは、ダンジョンに隠されていると言われる特殊エリアで、レアアイテムやお宝が眠るセーフティエリアのこと。一度出れば二度と入れない――そんな噂を聞いたことがあった。だから私はここに留まり続けている。
そこで手に入れたのが「レア職業の書」。一度だけ職業を変更できるアイテムで、飛ばされた初日に命を救ってくれた宝物だ。
私が選んだ職業は「探究者」。聞いたことも見たこともないレア職で、ユニークスキルまで授かった。あのときこの書がなければ、今の私は存在していなかっただろう。
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職業:探究者
ユニークスキル:魔素転換[319]
・到達階層と同じ数の魔素を、24時間ごとに獲得する。
・魔素を媒体に、さまざまなものへ転換可能。
•魔素1 → 経験値50
•魔素300 → 最大体力+1 または 最大魔力+1
•魔素3000 → 身体能力値1P
•魔素1〜3 → 食糧/飲料
•魔素100 → ランダムBOX【銅】
•魔素500 → ランダムBOX【銀】
•魔素3000 → ランダムBOX【金】
•魔素10000 → ランダムBOX【虹】
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このスキルがなければ、生き延びることはできなかった。食糧も水も、レベルだって上げられた。生きるだけなら十分だった。
……ただ、生きるだけなら。
私は14歳でここに飛ばされ、18歳になった今も脱出できずにいる。四年間、かすかな希望を抱き救援を待った。けれど、現在のダンジョン最高到達階層は78階層。地上に戻れる望みを他人に託すのは、もう無意味だと悟った。
戻る方法があるとすれば――十階層ごとにあるセーフティエリアの転送装置を使うか、帰還アイテムを手に入れるか。ランダムBOXから帰還アイテムが出るよう祈ったが、いまだ一度も引き当てられていない。現実の壁に、心は折れかけていた。
「はぁ……やっぱり319階層のボスを倒すか、9階層上がって310階層の転移装置を使うしかないよね」
奇跡的に転送された319階層の秘境エリア。ここを一歩でも出れば二度と戻れず、モンスターが蠢く通常の319階層へ放り出される。敵の強さも、広さも、ボスの正体すら分からない。出れば死ぬ――その恐怖が、私を四年間もここに縛りつけてきた。
「私のランクは21か……。毎日ほとんどの魔素を経験値に変えてこれだもん。モンスターと戦ったこともないし……ほんと無理だよ。どうしよう、私は一生このまま……」
繰り返し呟いた言葉に、また溜息が漏れる。気を紛らわすように草原の中の小屋へ戻る。外観は粗末だが、寝るだけなら問題ない。中には、場違いなシングルベッドが一つ。
「ランダムBOXってほんと便利だよね……。ギャンブル性はあるけど、銀ボックスから家具や電化製品が出てくるんだもん」
ベッドに身を投げ出し、穴だらけの屋根を見上げる。今では見慣れたが、最初は何もない草原に困惑した。小川も流れているし、木も数十本。広さは体育館ほどで、境界線に囲まれている。その向こうには、きっとモンスターがいる。触れるだけで出てしまうのか、通り抜けたら出るのかは分からない。確かめる勇気もない。だから境界線の10メートル以内には近づかないようにしている。
「やっぱりキーアイテムは金か虹のBOXだよね。今まで開けた金は5回、虹は2回で……出たのは確か――」
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金BOX
•身代わりの宝玉【★★★★☆】
•万能薬【★★☆☆☆】
•ヒールの書【☆☆☆☆】
•シールドの書【☆☆☆】
•ファイアアローの書【☆☆】
•気配遮断の書【☆☆】
虹BOX
•白法のマント【★】
•マジックポーチ(中)【★★★★☆】
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金BOXはスキルや防御系、虹BOXは装備品系が多い。まだ開封数が少なく確証はないが、傾向は掴めてきた。とはいえ必要な魔素が多すぎて、検証には膨大な時間がかかる。
「今日はスキルの練習してから、お風呂にでも入ろっかな」
手に入れたスキルは毎日使い、魔力が尽きるまで訓練するのが日課だ。ここでの暮らしは単調で、スキル訓練と体力維持のランニングくらいしかすることがない。
「よし……とりあえず日課は終わりっと。魔力切れすると目眩がすごいけど……お風呂入って寝ればスッキリするのよね」
銅BOXから出たタライやシャンプーを抱え、小川へ向かう。衣服を脱ぎ捨て、人目も気にせず水で身を清める。一人寂しい暮らしに、羞恥心などとうに消え去っていた。タオルを泡立てながら、成長した胸に視線を落とす。
――君が必要になる日は、来るのだろうか?
素敵な旦那様と、可愛い子どもに囲まれて、温かな家庭を築きたい。そんな願いは、一人でいるほどに強くなる。
「絶対に無事に地上へ帰る」
私は今日も強い決意とともに、そう誓った。
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