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1.異世界到着

 映画や漫画にありがちなワープ的な演出や空間が歪んで……みたいな事はとくになく、病院で注射する時に看護師さんが子供に言う「は〜い一瞬チクってするからね」くらいのアッサリさで異世界に到着した。

 

「見た感じは普通に森だな……異世界のイメージ的にクネクネしてたり紫がかった木とかを期待していたんだくなど」


 俺は伊集院先生に貰った手帳に書いてある〈最初の行動〉の項をひとまず読み始めた。


「なになに……召喚魔法陣の場所から約5km先にある私の家……5km?!どうせ私有地ならもう少し距離縮められただろ!」


 地球ですら知らない土地の森を事前情報無しに5kmも歩かない。ドン引きしながら再び手帳を読んでいると、注釈として〈召喚魔法陣から家までは結界があるのでよほどルートを外れない限りは安全〉と書いてあった。


「……それじゃあさっさとその家に向かいますか」


 あわよくば探索を、と思ったが辺りを見渡すと少し日が暮れかけているように見える。

 時計が無いので正確には分からないが、世界中の秘境という名の僻地に行ってきた俺の勘が今はやめておけと言っている。

 荷物の最終チェックと準備運動を少しして、駆け足で安全ルートを進んでいく。結界の効果なのかほんのり光っているので分かりやすくて助かる。そしてなんと言っても、15歳の体が身軽すぎて楽しい。


「若返ったのはいいけど、この体じゃすぐ体力なくなりそうだな。落ち着いたらまた鍛えるか」


 冒険にはフィジカルが1番大切なのだ。

 安全ルートの道は分かりやすく歩きやすく整地がされている。わざわざ森の奥に隠している場所への道がこれじゃあ本末転倒では?と思ったが、振り返ってみると来た道が鬱蒼とした森に戻っている。

 これも結界とやらの効果なのだろう。よく考えられている。

 走ってきたからか思ったより早くに建物が見えてきた。あれが伊集院先生の家だろうか。


「デケー……」

 

 約5kmを走り終わると山小屋のような小さな家があり、安全ルートの結界の光がその場所を照らして消えた。

 もしかして、後ろのデカい家じゃなくこっちの山小屋が家なのか?

 手帳には家に到着した際の手順みたいなものが書いてあったのだが肝心な所が抜けている。

 森から家までのルートと、家でのハウトゥはあるのに、家の外観や入り方は書いていないのだ。


「いや、あの伊集院先生がこんな小さい家を自分の家なんて言うはずがない!あの伊集院先生が!」


「……キミ、この森の奥から来たのか?」


「えっ、あ、はい」


 悩みながらウロウロしていると、良い服を着た紳士が急に山小屋から出てきて声をかけられた。40代後半くらいで、雰囲気が少し伊集院先生に似ている。


「なるほど……ひとまず中に入ってくれ」


「わかりました。よろしくお願いします……?」


 紳士の案内で山小屋に入ると、地下へ案内をされた。


「キミもここに手をかざしてくれ」


 重厚な扉には魔法陣が書かれていて、紳士と俺は順番にそこに手をかざした。

 すると、ガチャリと鍵が開くような音がした。

 薄暗い通路を進んでいくと小さな部屋に繋がっていた。


「この隠し扉の先は私の書斎に繋がっている。君はサトシの代わりに来た調査員だね?」


「サトシ……あぁ、伊集院先生ですか?代わりかどうかはわかりませんが調査員は合っています」


 伊集院先生の本名は伊集院郷史(さとし)だ。やはりこの紳士は何か関係がある人なのだろうか。


「失礼、私は地球での名前を安藤龍(あんどうりゅう)という。こちらではアンドリューと名乗っている。訳あってこの世界にしばらく駐留している調査員だ。伊集院郷史は私の甥でね」


「い、伊集院先生の?!それにしては年齢が……」


「その辺はまあ、色々あるんだ。調査員が今日日本から来ると聞いていたからサトシが来るのかと思っていたのだが、君は……」


「ああ、自己紹介してませんでしたね、すみません。葉月夏生23歳、日本の大学院生で伊集院先生の研究室にいます。趣味は秘境探索で、バイト代2000万につられて今回調査員になりました」


 安藤さんの笑顔が一瞬固まった。


「つ、つ、つまり君は異世界知識も特になくここに放り込まれたのか?!」


「まあそうですね。伊集院先生はよくそういうことをするので慣れていますが」


「はぁ……甥に変わって謝罪する。あいつ、地球ではもういい歳だろうに……ひとまず部屋で話そう」


 伊集院先生は50代後半だったと思うので、たしかにいい歳である。

 隠し扉から書斎に入るとアンティーク調の内装と調度品に胸が高鳴った。


「あ、そうだ家に着いたらそこの人にこれを渡せと言われていた手紙です。安藤さんに渡すって事で合ってますか?」


「ああ、ありがとう。私がこの家の主人だから合っているよ。ふん……なるほどね」


 安藤さんは手紙を読み終わると何かを書き始めた。


「サトシから預かっているものを机に置いといてもらえるか?私は使用人達に指示をしてくる。一旦この部屋に食事を持ってこさせるから飯を食いながら少し待っていてくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 俺はリュックの中を整理しながら一息ついていると、部屋にあった姿見に目がいった。

 世界契約魔術で幼くなった見た目は髪の色や目の色以外は基本的には俺自身のままなので、中学時代の自分がコスプレをしているみたいでちょっと面白い。


 コンコン

「失礼します、お食事をお持ちしました」


「うわっ!……ありがとうございます」


 鏡の前で色々なポーズをしていると、メイドさんが食事を運んできてくれたのだが……

 恥ずかしい!恥ずかしすぎる!

 何も言わずニコッとして退室していくメイドさんに言い訳をしたい気持ちを抑えながら、俺は用意してもらった食事を摂った。

 

 

 

ブクマや評価よければよろしくお願いします!

8月までは不定期更新です。

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