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贄の花嫁の幸せな嫁入り〜八日後に永久なる愛の契りを〜  作者: 朱宮あめ


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エピローグ


 声が聴こえる。

「橘花」

 はっきりと、じぶんを呼ぶ声。優しく、澄み切った水のように清らかな声。

 橘花は目を開けた。

「橘花!」

 目を開けると、白玖の顔が飛び込んできた。

 ほっとしたような顔で、橘花を見つめていた。白玖のとなりには、珠もいる。

「橘花さま! 橘花さまあ」

 珠はベッドにすがりついて、子どものように泣きじゃくっていた。

「うう、よかったです……」

「私……」

 呟きかけて、手になにかが触れていることに気付く。橘花は自身の手元を見る。

 白玖に手を握られていた。

 橘花は顔を蒼白にさせて、手を引っ込める。

「橘花。大丈夫だ」

 動揺する橘花に、白玖は優しく言った。

「大丈夫って……なにが」

「橘花の毒は消えた」

「消えた……?」

 困惑したまま、橘花は自身の手を見る。

 その手を、白玖はためらいなく握った。橘花は息を詰めて、繋がれた手を見る。

「ほらな?」と、白玖は柔らかく微笑んだ。

「うそ。どうして」

 橘花は信じられないものを見るように白玖を見た。

「本当になんともないのですか……?」

「うん。ない。橘花はもう、贄でもないし毒妃でもないからな」

 白玖の言葉に、橘花はハッとする。

「そうでした! 呪いは……」

「術が成功した。蛇神は身代わりの贄を喰らったから、もう橘花を襲いに来ることはない」

「身代わり……? それって、私の代わりにだれかが……?」

 不安な眼差しを向ける橘花に、白玖は首を振る。

「案ずることはない。身代わりにしたのは、人形だから」

「人形?」

「橘花は、流し雛というものを知っているか?」

 橘花は戸惑いながらも頷く。

「人形を川に流して、厄を流すとかいう……」

「そうだ。橘花は贄の花嫁として嫁いだ日、橘花に見立てた人形を作って、牢に閉じ込めた。人形に、じぶんは贄の花嫁であると、毒の姫であると思わせて、昨晩、川に流した」

「では、夢で見た大蛇が喰らっていたのは……」

「橘花に見立てた人形だろう」

 白玖は橘花の手を握り直した。橘花は身を起こす。白玖はそっと背中に手をやり、橘花の身体を支えた。

 橘花は白玖を見つめる。

「必ず助けると言っただろ?」

「……どうして、そこまで」

「花嫁を守るのは、夫としての務めだ。俺は当然のことをしたまで」

 白玖はさらりと言った。

 そんな、ひとことで終わらせるようなことではなかったはずだ。

 人形に魂を持たせ、己はひとであると錯覚させるのは、相当な力がないとできないと本で読んだことがある。それに、力だけではない。川に流すその日まで、ひととして接していかねばならない。気力だけでなく、根気もいる術だ。

 だから、未だに人柱というものが存在するのだ。

 白玖は、橘花のためにどれだけの力を尽くし、動いてくれたのだろう。

 橘花は白玖になんと言えばいいのか分からなかった。

 ありがとう、ではとても足りない。

「あの……旦那さま」

 橘花は白玖を見つめながら、口を開く。が、続ける言葉が出てこない。

「……あの……」

「白玖」

「え?」

「白玖、と呼んでくれ。礼はそれでいい」

 どこか早口で白玖が言う。

「……白玖」

 言われたとおりに名前を呼んでみれば、白玖はそわそわと落ち着きなさげに視線を泳がせた。

「白玖?」

 もう一度呼ぶ。今度こそ、白玖は手で顔を覆ってしまった。

「あぁ……」

 息を吐くように呟き、指の隙間から橘花を見る。ようやく目が合う。白玖の瞳に熱を感じ、どきりと心臓が跳ねた。

 白玖らしからぬ表情に、橘花まで熱くなってくる。

「橘花」

「は、はい」

 白玖は手を離し、橘花に向き合った。真剣な眼差しに、橘花は姿勢を伸ばす。

「嫁入りの日、話したことを覚えているか?」

 橘花はこの屋敷に来た日のことを思い出す。

『お前が八日目を迎えられたときは、俺を夫として受け入れてほしい』

「……は、い」

 忘れるはずがない。

 あの言葉のせいで、この世に未練ができたのだから。

 あの言葉のおかげで、もう一度生きたいと思ったのだから。

「橘花。俺と生きてくれるか?」

 橘花は俯く。こういうとき、なんと返せばいいのだろう。分からない。

 橘花は顔を上げる。そっと手を伸ばした。白玖の頬に触れ、撫でる。白玖の肌はなめらかで、そしてとてもあたたかかった。

「私も……生きてみたいです。白玖と」

 思うままに言うと、白玖はさわやかに破顔した。

「ありがとう」

 白玖の顔が近付く。橘花の心に、もう怯えはなかった。

 唇に、白玖の唇が触れる。柔らかな感触に、泣きそうになった。

 見上げると、白玖はそれまで涼しげだった目元を和らげ、優しい笑みを浮かべていた。


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