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とこちゃん・ひとちゃんシリーズ(童話)

おじいちゃんのめがねは、まるさんかくしかく

作者: 瑞月風花


 とこちゃんの学校がなつ休みになったので、かぞくみんなでおじいちゃんとおばあちゃんのお家へやってきました。

 ひとちゃんと一緒に水色の『アイスキャンデー』をもらい、蚊取りせんこうのお庭の大きな窓でシャリシャリたべました。

 ソーダ味なのです。


 そして、ときどきソーダ色のふうりんがちりりんと音を鳴らし、松の木にせみが頭をぶつけて止まる音、ジジと鳴いておしっこを落として飛んで行く音が聞こえてきます。

 夕方にはキュウリやナスを馬や牛にして『ごせんぞさま』を迎えるための小さなたき火をするのだそうです。

 とこちゃんは、それを楽しみにしているのです。


 さきにアイスキャンデーを食べ終わってしまったとこちゃんは、アイスキャンデーの平べったい棒をかみかみしながら、棒をぎっこんばったんと動かして、ひとちゃんが食べおわるのをまちました。かみかみしていると、まだ少しソーダ味がするのです。

 となりにすわっているひとちゃんは、まだいっしょうけんめい食べています。そろそろ、ソーダの味がしなくなってきています。


 おじいちゃんとおかあさんは、お買いもの。おばあちゃんは、お二階でせんたく中。お父さんは外の道路で、車を洗っています。

 でも、まだまだ食べてそうだな、と思ったとこちゃんは、つまらなくなって、ぴょんと庭におりてしまいました。


「あ、おねーちゃん、まって」

ひとちゃんが、あわてて飛び下りた時、アイスキャンデーがポトンとお庭に落ちてしまいました。


 ひとちゃんが、なきだしました。

 とこちゃんは、そわそわしてしまいます。

 私のせいじゃないよ。

 そんな気持ちになりました。


「ひとちゃん、だいじょうぶ?」

だけど、とこちゃんはお姉ちゃんなのです。そして、どうして落ちたのかをひとちゃんに教えてあげます。

「ひとちゃんがたべおわってないのに、動くからだよ」

すると、余計にひとちゃんが泣き出してしまいました。


「泣かないでよ」

「あいすおちたぁ。ひとちゃんのあいすなぁい。まだ食べたかったぁ」


 お母さんに言えばもうひとつくれるかなぁ。

 でも、とこちゃんが待ってあげないからって言われるかなぁ……。

 とこちゃんも泣きたくなりますが、ひとちゃんのあたまをなでてあげます。

 だって、お姉ちゃんなんですもの。

 だけど、泣き止まないひとちゃんの泣き声が、とこちゃんのせいだ、と言っているように聞こえます。


「ひとちゃん、泣かないで」

お父さんなら、れいぞうこから笑って出してくれるかもしれません。だけど、ぜったいにお母さんに言っちゃいます。


 いつもそうなのです。

 ひとちゃんは泣き止みません。

 とこちゃんの中に、どうしよう、のきもちがいっぱいになってきました。


「もうっ、おちちゃったんだから、しかたないじゃん」

おこったとこちゃんに、ひとちゃんがもっと大きな声で泣き出してしまいました。

「わあぁーん」


 おばあちゃんと、おじいちゃんなら……。


「どうしたんだい?」

とこちゃんの目の前に黒いふちの四角いめがねを掛けたおじいちゃんが立っていました。

「おじいちゃん、ひとちゃんが、……」

お母さんと買い物へ行っていたおじいちゃんが帰ってきていました。


「あぁ、落としちゃったのかな」

おじいちゃんが、とこちゃんの見ている先を見て、なっとくしたように、笑いました。

「ひとちゃんの分、もういっぽんとりにいこうかね」

「いいの?」

とこちゃんが尋ねると、やっぱりおじいちゃんが、にっこり笑いました。もうひとちゃんも泣いていません。


「いっしょにおいで」

とこちゃんはほっとして「うん」とおじいちゃんについていきました。

 おじいちゃんは、家の中に入り、アイスキャンデーを2本出してくれました。ひとちゃんはうれしそうにアイスを1本もらいました。


「とこちゃんも、どうぞ」

「おなかをこわすから、明日にする」

「ははは、とこちゃんは良い子だね」

おじいちゃんは、やっぱりやさしく笑いました。


「とこちゃーん、ひとちゃーん」

お母さんがお庭の方から、とこちゃんとひとちゃんを呼ぶ声が聞こえてきます。


「お母さんの声かな」

「うん、おじいちゃん、ありがとう」

とこちゃんがお礼を言うと、ひとちゃんも「ありがとー」とにこにこして言いました。


「また、あとでね」

「うん! おかあさん、ここだよ~」

とこちゃんとひとちゃんは、そう叫びながら、お庭に戻ると、おじいちゃんがセミのぬけがらを二つもって、お母さんの隣に立っていました。


「おじいちゃん、どうやってきたの?」

おじいちゃんは、ふしぎそうな顔をしながら、「げんかんは通らずに、あっちの扉から来たんだよ」と言って、セミのぬけがらをとこちゃんとひとちゃんに、ひとつずつくれました。


「ふーん」

「さっき、ひとちゃんが泣いてたみたいだけど」

お母さんが心配します。


「うん、だいじょうぶ。おじいちゃんのおかげで、なきやんだよ」

おじいちゃんは、やっぱりふしぎそうにしながら、「それはよかったよ」と笑います。

 さっきと同じやさしいえがおでした。


 三時のおやつがおわり、お盆の迎え火のよういをしているときに、ひとちゃんが「まる、しかく、さんかく」と知っている形を言いながら、おじいちゃんのめがねを指さした時に、とこちゃんは、ふしぎなことに気付きました。おじいちゃんのめがねの形がまるい三角になっているのです。


「なんで、めがね変えたの?」

そんな風にたずねたとこちゃんに、またおじいちゃんが、こたえました。


「あぁ、去年のめがねは、ねおきにふんづけちゃってね。とこちゃんは、前のめがねの方がいいのかい?」

とこちゃんは、きょとんとしながら考えて、「ううん、どっちもすき」と答えたあと、キュウリの馬とナスビの牛につまようじをさして、満足そうにしました。


「できたよ~」


 おじいちゃんとおばあちゃん、おとうさんにおかあさん、みんながにこにこ笑って、上手ね、と言ってくれました。

 迎え火の用意がすっかり終わり、あとは夕方になるのを待つだけ。そんなことを考えているうちに、めがねのことはすっかり忘れてしまったとこちゃん。だけど、小さなたき火をして、とこちゃんが作った馬と牛にのって帰ってくる「ごせんぞさま」に「おかえり」をいうことは、忘れていませんでした。


 夕方になり少し涼しい風がふうりんを鳴らします。

「おかえり~」

とこちゃんとひとちゃんの声に、もう一度、ふうりんが『ちりん』となりました。



 あのおじいちゃんにそっくりな、四角めがねおじいちゃんは、いったい誰だったのでしょうね。



 


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