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 三十人の顔が法廷を埋め尽くして彼女を見つめている。

 見つめるもの全員の顔が渇ききり、のどに唾が落ちない。

 期待と不安で目ばかりが大きく見開かれて、歯ぎしりの音は聞こえても声は聞かれず、ため息も漏れない。

 そして判決文が読み上げられる。

 暗い法廷の石の窓の外の空は〈青〉と〈橙〉と〈越紫スーパー・ヴァイ〉の複雑で妙に非感能的なパタンを描き、地上を徘徊する猫蜜柑タンジェリン・キャットの群れはミャオニャオと、その場に不釣合な和合の鳴き声をあげている。

 そして丸い木枠のなかの彼女は直立不動の姿勢をとって、穏やかな表情で判決文を耳に受け入れる。

「判決。アキコ・クラハシを殺人罪と断定し、懲役十五年の刑に処する。主文……」

 とまどい気味の臨時裁判官であるクーリン市長が、たどたどしく判決文を読み上げていく。

 廷内の空気は堅く寒く、よどんで痛い。

 彼女がチラと法廷の入口を振り返るが、だれの存在もない。

 だれかが来る気配もない。

 彼女が目を閉じた。

(間に合わなかったわね、ベビーフェイス。せっかく最後の賭をしにきたのに、これじゃぁね。どうにもならないわ)

 彼女がふっとため息をつき、見ていたもの全員がそのしぐさを悲しいと感じ、胸の内側の骨の上にローラーコースターのgの圧迫を感じる。

 そして彼女が何か小声でつぶやき、裁判官が彼女の視線を避ける。

「バイ、童顔の色気狂いさん!」

 その言葉はだれの耳にも聞こえない。少なくとも、そのときの、その場では……。


    *    *    *


 三が四に変われば、二が三であってもおかしくない。

 向かいあう色が白ならば、それは一二〇度の三すくみで達成される……かもしれない。

 証明を急げ! あのときの気象条件と合致する空中浮遊性蛍光色素微生物を探しだし、過去のデータと付きあわせれば、アキを救える!

 鉱物および惑星物理学者で、ウエスト五七で、身長一七二で、いつも毅然としていて、けれどもやわらかで、いまでも夢の友であるアキ。

 きみはどんな顔をして法廷に立っているのか?

 色気狂いの星、ここリレイヤーで殺人罪に問われ、救ってくれるものは四つの視細胞を持つこの星の生物と感光色素の色特性だけで、その専門家が――きみにとって色気狂いの――元夫だけだとしたら……。


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