其の二
部屋に着いた頃には、二人の兵の肩を借りていた。
左腿の出血は止まっていた。知らない間に、止血をしたらしい。包帯がきつめに巻かれている。
ベッドの上におろされると、横になった。
……気持ち悪い。
思いっきり吐きたいが、そんな事も出来ず、ひたすら我慢した。
「剣斬?」
光の方を向いた。
「顔色悪いよ。痛いの?」
首を横に振った。
「じゃあ、どうしたの?」
「は、吐きそう……」
今、口を開けたせいで限界を超えた。だが、冷や汗を垂らしながら、一生懸命我慢する。
光は慌てて兵たちに下がるように言った。そして、近くから桶のような物を持ってきた。
ここからの話しは控えよう。
そんなこんなで一段落ついた。
「……」
「大丈夫?」
俺は頷いた。
それからずっと、光は側に居た。それなのに、体が震えない。これが『慣れる』と言うことか。
……恐ろしい。
「何故、話せるんだ?」
「えっ?」
唐突な俺の質問に、一瞬、目を丸くした。
「今までテレパシーで話してただろ。なのに何故、声を出して話しているんだ? と、聞いたんだ」
「ああ。そういう事。私、他の国だと声が出なくなるの。何故かは、分からないけど……」
光は苦笑いした。
「じゃあ、何で俺たちは、ゲルグ国に居るんだ? 禁断の森はザガス国に在るんだぞ」
「湖よ」
「湖? ……禁断の森の湖か?」
光は頷いた。
「あの湖、底の方は水が勢いよく流れてるみたい。だから流されて……。気づいたら川に出てたの。不思議な湖だね」
初めて知った。今まで禁断の森に居ながら、全然気付かなかった。
湖の底だから、気付かないのは当たり前かもしれない。
「じゃあ、何故、ゲルグ国の城に居るんだ? 城の近くの川に出たのか?」
「うん」
納得したように、軽く頷いた。
「他に聞きたいことはある?」
聞きたいこと……。
「何故、生きているんだ」
「……私のこと?」
不安げに聞く光の言葉を否定する。
「違う! 俺だ。腿から肩から、それなりに大量の血を流していたはず。だが、俺は生きている。何故だ!? 俺は……あのまま死にたかった!」
ハッと、自分が何を言ったのか思い返す。本当に死にたいと思ったのか? それなら、いつ……。
ドアが閉まる音がした。
辺りに光が居ない。部屋から出て行ったようだ。
独りになった俺は、しばらく眠った。
目が覚めると、辺りは真っ暗だった。どうやら夜中らしい。
窓を開け、下を見る。
そんなに高くない。
持つ物を持って、壁伝いに降りる。
辺りに見張りの兵は居ない。それを確認して、地面に飛び降りる。
耳を澄ますと、水の音が聞こえた。近くに川があるようだ。
俺はその音のする方へ、小走りに行った。
其処にあったのは、小さな小川。だが、かなり深そうだ。近くにあった棒で川の中を探る。川の中は広い。
俺はその中へ静かに入り、大きく息を吸い込んで、潜った。
川の流れるまま、俺は、流されて行った。