第二章 其の一
第二章の始まりですが、更新は遅いです。
近くから、荒い息づかいの音が聞こえる。誰かが近くに居るのだろうか。
うっすらと目を開けたが、人の気配はない。俺の目に映ったのは、数本の管のようなもの。
俺の顎から鼻のところに、防具みたいなものがついている。だが、息がしやすい。荒い息づかいをしているのは俺のようだ。
もう一度、静かに目を閉じる。
よく聞くと、ピッ……ピッ……と小さな音がする。まるで小さな鳥が母親を呼ぶかのように……。
ハッと、目を見開いた。
俺は夜龍と戦っていたんだ。樵たちを守るために。なのに何故、こんな所に居る!?
……思い出せない。
力無く、目を閉じる。
……強くなりたい。
自分に言い聞かせる。
……今からでも間に合う。樵たちを助けに行く。
目を開け、口にある防具みたいなものを取って、体中にある管も片っ端から取った。それからゆっくり起き上がり、ベッドに座った状態になった。
左腿や右肩に多少の痛みが残っている。しかし、そんなことを気にしてはいられない。
枕元に置いてある極龍我を、鞘に入れたまま、先だけを床につけた。それを杖にして左足の補助にする。
部屋を出て、壁伝いで適当に歩いていく。
ボロボロになった、ザガス国の印が入っている防護服。右足だけ残っている、ザガス国の印が入った防具。左腕にはザガス国本部隊大佐の印も入っている。
此処がもし、ザガス国でないとしたら、確実に殺されているだろう。しかし、俺は生きている。だから、もしかしたら、此処はザガス国なのではないか。
そう思ってみる。
角を曲がると、前から誰かが来る気配がした。
少し立ち止まり、様子をうかがう。
向こうも俺に気付いたのか、立ち止まった。よく見ると、見覚えがあるような……。
あれは……!
「光……!?」
立ち止まった奴は、陽気に走って来る。やはり光だ。
知ってる者に会えたのは嬉しい。だが、俺の体は震え上がり、其処へ片膝をつけてへばった。顔から血の気が引いていく。
『剣斬』
何処かで聞いたことのある女の声。顔を上げると、俺から少し距離を置いた所に光が立っている。辺りを見回すが、人間は見当たらない。やはり、光の声なのか。
しかし、見た目より随分大人びた声。光の訳がない。
一応、確認してみる。
「俺に話し掛けてくるのは、光か?」
『うん』
どうやら本当に光の声らしい。未だに信じられないが……。
「樵たちは?」
光の顔を見ずに問う。
『分からない。でも、あの森からは出たはずだよ』
とりあえずは安心だな。
俺は立ち上がり、壁に手をついた。あちこちが余計に痛む。
『大丈夫?』
「此処はザガス国なのか?」
心配されるのは嫌い。
俺は彼女に問いかけた。
『違うよ』
「何故、分かる?」
『だって此処、私のお家だもん』
光はその場でくるくる回っていた。
家にしては大きすぎる。城並みだ。まるでザガス国の城みたいに広い。
……まさか!?
「お前、この国の姫なのか……?」
『当ったりー。私は、このゲルグ国のお姫様で〜す』
俺は慌てて跪いた。
「ゲルグ国の姫とは知らず、数々の無礼、お許し下さい」
左腿がズキズキと痛む。
『許してあげる』
「居たぞ!」
後ろから数人のゲルグ国の兵が走って来た。俺はふらふらと立ち上がり、壁にもたれ掛かった。鞘から剣を出し、構える。
兵はすぐに跪いた。
「城内での争いは許さない」
そう言ったのは光だった。
「承知しております故、我々は武器を持っておりませぬ」
確かに、兵の誰一人として武器を持っていない。
「分かってる。剣斬」
俺は後ろを振り返った。
「刀を収めなさい」
「俺はザガス国の人間だ。他国の姫であろうと、言うことは聞かん」
「貴様! 姫様に何てことを言う!」
血液が脈を打った瞬間、左腿の痛みが増した。俺は痛さに耐えきれず、しゃがみこんだ。その床には血の水たまりが出来ていた。
「……!!」
俺は刀をしまった。そしてまた、鞘を杖にして歩き出そうとした。だが、あまりの痛さに、足が動かない。
「剣斬! 早く、早く部屋に戻って!」
兵が何人か俺の所へ駆け寄って来た。俺はそれを振り払い、左腿を押さえた。
痛みを堪えながら、来た道を戻った。