其の三
少女をこの森に住まわせて、半月ほど経った。野獣たちと少女は毎日のように遊んでいる。
昔から少女を知っていたように警戒心も、不信の色すら、微塵もない。
俺は少女を避けるようにしていた。
高い木の上で、少女の遊ぶ光景を眺める。
「剣斬」
樵が俺の隣に来た。
「何だ」
出した声の不機嫌さに腹が立つ。
相手は少女ではなく樵だ。なのに、不機嫌さが増すばかり。
「何だよ、怖い声出しやがって。まあ、いいや。何でお前、コウと話さないんだ?」
「コウ?」
「俺たちがあの子に名前を付けたのさ。「光」って書いて「コウ」。いい名前だろ」
そう言いながら樵は笑っていた。
「アイツは、話せないんだろ?」
「テレパシーを使うぜ」
ふ〜ん。と言って、下を見ると、少女が上を見上げていた。
少女、いや、光に刃を向けたこともあって、初めは、俺を見る度に逃げ回っていた。しかし、何もしないと分かったのか、最近はこっちを見ることが多い。
だが、テレパシーで話し掛けられた事は未だ無い。
「おう」
突然、樵が何か言い、下に降りた。
「剣斬も来いよ」
「何故だ」
「光がよぉ、お前と遊びてぇ、って」
「黙れ! 俺はあくまでも、この森の管理者だ。そんな奴と遊ぶために来ているんじゃない!」
俺自身、この発言に驚いた。今まで樵たちに怒鳴ったことなど、滅多にないからだ。
樵たちも相当驚いていた。
「剣斬、お前、最近どうしたんだよ……」
「いや……悪い」
俺も地に飛び降りた。
埃を払い、前を見ると光が立っていた。想定外の事で焦る。
「な、何だよ」
地より低い声。それに構わず、光は近付いて来る。
俺の体が震えているのに、気付いた。光に怯えるかのように、体が激しく震える。
「剣斬」
ハッとなって、樵の元へ逃げるように歩み寄った。
「どうしたんだよ。そんなに震えて」
「こ、怖い……」
それから、逃げるように、森から走り去った。
その事があってからは、ほとんど森へ来なくなった。
気がつけば1ヶ月近く経っていた。
ドアのノック音。
「剣斬。居るか」
夜龍の声だ。
「居るぞ」
そう返事をすると、夜龍が入って来た。
「居る。とは言ったが、入っていい。とは言ってないぞ」
言いながら、顔がほころぶ。いつも言う、俺の屁理屈。夜龍も笑っていた。
「剣斬。お前、管理者のクセに、何で禁断の森に来ないんだよ。仕事、俺に任せっぱなしかよ」
苦笑いしながら、夜龍は言った。
「いや、色々あって……な」
俺の小さな困惑を察してくれたらしく、それ以上は、何も言わなかった。何も言わず、沈黙が続く。
「……なぁ」
俺は夜龍に話し掛けた。
「ん?」
「今度、一緒に森に行こうぜ」
「おっ! 孤高の戦士様からお誘いとは、珍しい。いいぜ」
その約束をすると、夜龍は帰って行った。