第一章 其の一
俺は久しぶりに、戦いの時以外で外に出た。だが今日は、あいにく曇りだ。
しかし、街は活気に溢れている。
不思議なものだ。
俺は街を通り抜け、ひっそりとした荒れ地に来た。そこをもう少し進むと森がある。
そこは、絶対に入ってはならない森と言われる「禁断の森」がある場所。入れば厳しい罰を受けると言う。
しかし俺は、王から直々に許可を頂戴している「禁断の森の管理者」だから、入っても大丈夫だ。
もう1人、夜龍と呼ばれる同士が居る。そいつも禁断の森の管理者だ。
此処が禁断の森と呼ばれているのは、野獣たちが居るからだ。しかし俺にとっては、どいつもハエだ。
前はそう思っていた。
森に入り数日の間は何もせず、野獣たちを観察していた。が、ある日、いきなり話しかけられた。初めは、ここに来る理由やら何やら、どうでもいい話だった。何かと話したり、一緒に居ると、以外にも野獣たちはいい奴らばかりだと、分かるようになった。
三年間の戦争中は、一度も戻って来てない。
……この森に来るのも、随分久しいな。
緊張と嬉しさと懐かしさでドキドキしながら、一歩踏み入れる。すると、近くの木の陰から見覚えのあるちっちゃい奴が出てきた。
そいつが俺に気づき、大声を上げた。
「うおぉぉぉぉおお! お前、まさか……剣斬じゃねえか!?」
「おう。久しいな。樵」
「長い戦いだったな! ザガス国が勝利したんだってな!!!? 俺、すっげぇ嬉しいぜ!!」
樵はそう言いながら、興奮していた。
「当たり前だ。俺の軍隊を舐めんなよ」
そう言って樵に笑って見せた。
ふと、辺りを見回すと、見覚えのある奴らがたくさん居た。
見覚えのない奴らも少なからず居る。
あちこちから俺の名前を呼ぶ声や、勝利を祝う声なんかも聞こえてくる。
俺はそいつらに声を掛けられ、奥の湖へ行った。
そこには、縄で縛られた人間が三人居た。
男二人に女が一人。
男二人は猟師らしい。近くに銃が二つ転がっている。女は、幼さの面影があるところから見て、多分、少女らしい。
「お前ら、銃を持って何しに来た?」
俺は一人の男に刀を突きつけ、問いた。
禁断の森に入る許可を貰えたのは、禁断の森に入った奴らを処罰して欲しい、と言う理由からだ。
刀を突きつけられた奴が喋り始めた。
「そ、それが……。鳥を追いかけてましたら……こ、ここに……」
「鳥とは、どんな鳥だ?」
「た、鷹……鷹です」
「鷹?」
俺は樵に目をやった。樵は首を横に振った。
このザガス国に、鷹という鳥は存在しない。
「貴様ら、シュー国の者か?」
シュー国とは、三年の時を経て、ついこの間手に入れた隣国のことだ。
シュー国には鷹という鳥が存在すると聞いた。
俺の問いから、暫し沈黙が流れた。
「……我らはシュー国の者です」
刀を突きつけられていない奴が答えた。
「シュー元国王の命か?」
「はい」
そいつは次々に出す俺の質問に、正直に答えていった。
「これが最後の問いだ。この森に入れば処罰される、と言う事も知っていて来たんだな?」
二人の顔が強張った。
俺は近くに居る野獣たちに声を掛け、男二人を湖に沈めるよう言った。一匹の大きい野獣、猿が男二人の後ろに立ち、湖の側まで連れて行った。そして猿は、男どもを湖に蹴り落とした。