第三章 其の一
「剣斬、起きろ。剣斬!」
俺を起こしたのは烏鷹だった。
ゲルグ国王に忠誠を誓い、幾日か経った。そして俺は、大佐補佐という高位を頂いた。
大佐は烏鷹だ。
光の側に居るから、姫の護衛兵とばかり思っていた。しかしそれも、高い身分だからこそ、任されている務めのようだ。
その点は、ザガス国とは全然違う。
ザガス国には王子が居るらしい。しかし、ザガス国王や王妃、一部の者しか見たことないと言う。
一体、どうやって生活しているのか。
それさえ、俺は知らない。
……隣国でも、ここまで違うとは……。やはり世界は広いな。
俺は烏鷹や他の兵たちと共に庭へ出る。
そこから、俺たちゲルグ国の戦士の一日が始まる。
朝から昼まで、同士たちと剣を交える。昼から夜は自己練習、余談など、自由な時間。
ゲルグ国の戦士たちは強い。俺より遥かに強い者たちが何人も居る。
烏鷹もその一人だ。
そして今、烏鷹と剣を交えている。が、勝てない。烏鷹は俺の動きを読み、必ずかわす。
……何故だ!?
烏鷹は錘のついた棒を下ろした。
「剣斬。お前は強いが、動きが遅い。それに変な癖がついているようだ」
「変な癖?」
「斬るところを凝視する癖だ。例えば、腹を斬ろうとするとき、腹を凝視している。『今からあなたのお腹を斬りますよ』と言ってるみたいにな」
烏鷹は苦笑いした。
言われてみれば、確かにそうだ。俺は、その目的を凝視する癖があるようだ。
相手の視線や、ちょっとした目の動きで心を読み取る。さすがは、大佐に位置するだけあるな。と、俺は感心した。
「もう一度、斬りかかって来い!」
俺は頷き、奇声を上げ、目線に注意しながら斬りかかった。が、上手く当たらなかった。
「俺の目を凝視するな。それじゃあ、斬りたい所が見えんだろ」
「おう……」
烏鷹の言うとおり、斬りたい所が見えなかった。だから、上手く出来なかったようだ。
「俺が一回……いや、いつもやってるのと同じだが……とりあえず、ゆっくり一回やるから見とけ」
そう言って、数メートル離れた。
そこで剣を構え、小走りで来る。今の目線は俺の目だ。
一瞬、目線を変えた。それが何処を見たのかは分からなかった。
すると態勢を変えて、一気に走り寄って来た。
間合いに入ると同時に脚を見た。そして、そこを叩いた。
「痛っ!」
わざとかは知らないが、烏鷹が思いっきり俺の脚を叩いてきた。
「はは。悪い」
笑いながら言っている彼に、謝る気はなさそうだ。
「さぁ、剣斬。俺がいつ目線を変えたか、答えてみろ」
「間合いに入る前に一回、間合いに入ってから一回」
「……その答え方なら失格」
「なっ! 何故だ!?」
「間合いに入る前だろうが後だろうが、おおざっぱ過ぎんだよ。まぁ、説教はこのくらいにしよう。……ついて来い。姫様がお呼びだ」
「……え?」
光に呼ばれるのは、初めてだ。そして、彼女に会うのは、俺がゲルグ国王に忠誠を誓って以来だった。
……何の用だろうか?
多少の不安を残しながら、烏鷹について行った。