其の三
やっと頭が起動し始めました。これからも宜しくお願いします!
「っ、はぁっ」
随分遠くまで流されたようだ。此処からゲルグ国の城らしき建て物は見えない。
近くでは、もう、東の空が明らんできている。
……此処は、何処だ?
とりあえず、川から上がり、辺りを見回す。
……平地、森、森、山。
俺の目に映ったのは、そんな風景。とりあえず森に入った。
陽は昇ったばかり。
森の中は薄暗く、余所見をしてれば、何処かに頭でも打ちそうだ。
そんなどうでもいい心配をしながら、奥へ進む。すると、どこからか声がするのに気がついた。
音がしないようにそっちへ歩み寄り、木陰からそっと覗く。
そこに居たのは、少女だった。
だが、どこかで見たことある気がする。
何かを探しているようで、あちこちを見回している。その横顔で誰か思い出した。
光だ。
……何でこんな所に居んだよ。
そう悪態づきながら、その場を離れようとした。
「誰か居るの?」
……! やばっ。
息を殺して、木陰に隠れる。
恐る恐る近づいて来る気配がする。俺の姿は見られていないようだ。
正体が俺だと確認される前に走り去ろう。と言う考えが浮かんだが、行動に出るまで一歩遅かった。
「剣斬!?」
その声に驚き、下を見下ろす。そこには当然、光が居る。
「何で居るの?」
もはや、言い逃れは効かない。だから、正直に話すことにした。
「その……城から抜け出して来た」
苦笑いしながら光の表情を伺う。俯いていて、表情は分からなかったが、強く拳を握り締めている。
間違いなく、怒っている。
俺と目があった瞬間、怒鳴り声を上げた。
「ちゃんと寝てなきゃ傷口が塞がらないでしょ!! 何で出歩くのよ! 大人しく寝てなさい!」
「……はい」
その勢いに圧されて、返事をすることしか出来なかった。
「姫様! どうなされましたか?」
そこに来たのは、見覚えのある兵たちだった。光の大声を聞いて、駆けつけたらしい。
そいつらが俺を見て驚く。
「なっ! ザガス国の本部隊大佐が何故、此処に? ゲルグの城で療養してたはずでは?」
「お城、抜けて来たんだって」
光がそう口にした。
すると、兵の顔が変わった。
「まさか、ザガスへ戻ろうとしていたのか!? 貴様……本当は密偵か何かだろう! 姫様の恩に背くのか!!」
「烏鷹、黙りなさい」
烏鷹と呼ばれた兵は小さく頭を下げ、跪いた。
……さすがは姫だな。
心の中で感心する。
「剣斬。ついて来なさい。お城に帰る」
いくら勢いが強く気圧されても、此処まで来たんだ。帰る訳にはいかない。
「俺はザガスの人間だ。悪いが、帰らせてもらう」
そう言い残して、去ろうとした。しかし、上から何かが覆い被さって来て、身動きがとれなくなった。
「なっ! 誰だ!? 退け!」
「うるさい! 姫様の命、故の行動だ! 異議は認めぬ。それに、此処はゲルグ国である故、ゲルグの王族関係者の指示に従え!」
俺は烏鷹と呼ばれた兵を睨みつけた。しかし、返す言葉が見つからない。
俺はため息を吐いた。
「分かった分かった。行けばいいんだろ。行けば」
烏鷹が退いてから立ち上がり、光たちと共に城へ向かった。