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叫ビ声

この作品はフィクションです。


今回が最終話となります。

聞き慣れた足音が耳に届く。


健気にも、カレは今もこの部屋へと通い続けている。



「やぁ、またボクに会いに来たのかい?」


「それ以外にこの部屋を訪れる理由などありはしない」


「それはまた、ごもっとも」


「事件を持って来た。処理を頼む」


「ちょっとちょっと、せっかち過ぎない? もっとお喋りしようよぉ」


「化け物と馴れ合うつもりはない」


「……何か、年を経る毎に頑なになってくよね、キミ」


「ジブンは元より、化け物に気を許してはいない」


「……確かに、キミは父親よりもつまらない人間だよ。間違いなくね」



あの父親の後ろに隠れていた子供が、もう見た目だけはボクと変わらない年齢になっている。


人間の成長は早いものだと、改めて感じさせられる。


とはいえ、その性格はいただけない。


今までの誰よりも、ボクに対して距離を置いている。


幼いながらも、父親の遺言を覚えていたという事だろうか。


中々に忌々しい。


キミ達はボクの玩具に過ぎないのに。


キミ達はボクの愛玩動物に過ぎないのに。


キミ達はボクに食事を提供し続ける給仕係に過ぎないのに。


世代を重ねる毎に、ボクへの反抗心を強めているみたいだ。



「仕事を成さぬなら、キサマに価値は無い」


「……随分と辛辣だなぁ。キミ、子供の頃からずっとツンケンしてるよねぇ」


「分を弁えろ、化け物。飼う側と飼われる側、対等であろう筈もない」


「…………」



まったくもってその通り。


だけど、キミの思う飼い主は違っているよ。


それはボクだ。


ボクこそがキミ達の一族を飼ってやってるんじゃないか。


キミ達が忘れ去ってしまっても、ボクだけは覚えている。


キミ達が正しく事情を後世に伝えられないのも、全てはボクの力に因るものだ。


ボクが全てを明かしてやれば、それで呪いは発動する。


全てを知った者は死に至る。


それを伝え聞いた者も死に至る。


キミ達は、唯々、ボクの為に生きて死にゆくのみ。


ボクはキミ達一族を決して滅ぼしたりはしない。


だけれども、決して解放してやりもしはしない。


ボクの可愛いキミ。


死なぬこの身に、死を免れえぬキミ達が抗う術など無いよ。



「事件を解決せぬのならば、キサマには相応の処置をするだけだ」


「……キミがボクに、一体何をしてくれるっていうのかな?」


「何もしない」


「…………は?」


「――だが、何もさせはしない」


「……ちょっと言っている意味が分からないんだけど?」


「ここには今後、誰も訪れなくなる。そして、キサマが外界への干渉を出来ないように施設の外から相応の措置を施す」


「何それ? キミがボクを拒む事なんて出来ないんだよ?」


「現に今、拒んでいるだろう?」


「そうじゃないよ。キミ達はボクを見限る事は出来ないのさ。絶対にね」


「そう思いたいなら、そう思っていればいい。ジブンは二度とここには訪れないだけだ」


「そんな事出来ないんだってば」


「――それは、呪いの所為だからか?」


「――――」


「今が何年だと思っている? 文明は発展を遂げ、技術は飛躍的に進歩した。キサマに関する情報を伝聞する術など、最早幾らでも存在する」


「――――」


「不死だと自称するキサマを無力化する方法すらも、幾らでも存在している」


「――――」


「――これで、どちらが飼っている側か、理解出来たか?」


「――余り、調子に乗るなよ、ニンゲン」



ボクは瞼を開く。


昏い虚が姿を現す。


ガラス向こうのニンゲンの姿を捉える。


ボクに抗う事は出来ないんだよ。


ボクは死なない程度に痛みを与えようとする。


が、途端、ニンゲンの姿が映らなくなった。



「――何で」


「キサマが眼球のない目で、如何なる原理でモノを認識しているのかは不明だが、物理法則から逃れている訳ではあるまい」

「光も音も、制御してみせるぐらいは造作も無い」


「…………」


「キサマが威勢を誇ったのは、最早過去に過ぎない。今やキサマを恐れる者は居はしない」


「…………」


「キサマは――」


「――五月蠅い」



ふん、随分と調子に乗ってくれるじゃないか。


なら、文字通り力に物言わせるだけさ。


ボクはガラスに手を置く。


そこにありったけの力を加えてゆく。


分厚いガラスに罅が入る。


それは全体へと波及し、やがて破砕した。


ガラスの壁が消え失せる。


ボクは外へと出ようとし、新たな壁に阻まれた。



「ジブンは既にその場には赴いてすらいない。技術により、キサマにそう錯覚させていただけだ。その部屋は何処にも繋がってはいない。キサマは出られない、永久に」


「……ふざけるな」

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」


「悪態をついたところで、状況は変わらない。搾取され続けた祖先達の為にも、キサマを自由になどさせない」


「ふざけ――」


「――これで仕舞いだ。最早、キサマに会う事は無い」


「待てよ、待て、待ってくれよ。こんなのはあんまりじゃないか。ボクはキミ達にずっとずっと付き合ってきてあげたっていうのに」


「…………」


「ボクが居なきゃ、外の化け物にはどう対処するつもりなのさ? 対処出来ないからボクを頼って来てたんだろ? そのボクをこのまま放置するなんて――」


「未知を既知にするのが人間だ。何時までもキサマに頼り続けるだけが能ではない。今は無理だとて、いずれは超克してみせるさ。キサマに心配されずとも、な」


「待て、待て待て待ってくれよ」


「――では、さらばだ」


「……………………ボクを、一人にしないでくれよぉ」






あれからどれ程の時が過ぎたのだろうか。


唯の一度も、誰とも会う事は叶わなかった。


もう、あの一族がどうなったのかも分からない。


ボクは忘れ去られてしまったのだろうか。




だが、そこに転機が訪れる。


分厚い壁が外側から破壊されたのだ。


どれぐらいぶりかも定かではない空気が室内に入って来るのを感じる。


それを肺一杯に吸い込む。


しかし、それは遠い記憶にあった程には旨いモノではなかった。


ともかく、これで外に出られる。


果たして、ボクはその部屋を後にする。




外は地獄と化していた。


誰も彼もが死んでいた。


恐らくは大規模な戦争でもあったのだろう。


あの部屋の壁が壊されたのも、その余波によるものか。


誰も居ない。


折角、外に出られたというのに。


もしも、このまま誰とも何とも会えなければ、ボクはこの広い外の世界に唯一人きりだ。


それでは、あの部屋と変わらない。


唯、部屋の規模が変わっただけだ。


この世界そのものが、ドアのない部屋に過ぎないでは無いか。


ボクは生まれて初めて絶叫した。






これにて完結となります。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『救世主は救わない』
完結しました!

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