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黒イ靄

この作品はフィクションです。


白い男視点です。


次回からは不定期更新となります。

来ない。

全然来ない。


もしかして、死んじゃった?

だとしたら、ボクがここで大人しくしている理由もないのかも。


外はあんまり好きじゃないけど、しばらくぶりに歩いてみるのも悪くはない。

散歩ついでに、カレを害したナニカを、どうにかしてやっても良いだろう。


と、待ち人来たれり、だ。



「しばらくぶりだねー。元気してたー?」


「……ちっ、まだ生きていたのか。存外にしぶといものだな」


「まさか、本当に焦らしてみせた訳じゃないよね? ねぇ?」


「どうだかな」


「ちょっとぉ、ボクが心配までしてあげたっていうのにさぁ。それは酷いんじゃない?」


「心配だと? オレをか? それはまた、無駄なことをしたものだな」


「何でさ。キミはボクとは違って、簡単に死んじゃうんだよ?」


「オレは頻繁に化け物と遭遇しているからな。だが、常に生還してみせているだろう?」


「…………まさかとは思うけど、それってボクの事じゃないよね?」


「どうだかな」


「あーっ、同じ事、また言っているしー。ボクをからかってるでしょ?」


「さてな」


「もぅ、心配のし甲斐の無いヤツだなぁ、キミは」


「それで、もう具合は良いのか?」


「え? 具合って何の事?」


「こないだの件だ。病がどうとかいう」


「あぁー、あの事ね。まだ気にしてたの? だから大丈夫だってば。キミって良く分からないところで頑固だよね」


「本当なんだな?」


「ホントホント、ダイジョウブダイジョウブ」


「……ふぅ、他に問題はないか?」


「んー? 問題ねぇ……誰かさんが素っ気ない事とか、かなー」


「それは直らんな」


「……素っ気ないってのは認めるんだね」


「オマエに余計な時間を掛けるつもりは無い」


「ボクの唯一の話し相手だっていうのに、つれないなぁ」


「好き好んで、ここに来ている訳じゃない」


「ボクはキミの事、好きだよ?」


「……それは気色の悪い話だな」


「その感想は酷いよー。世紀の告白だったのにー」


「そんな世紀はさっさと終わってしまえば良い」


「え? つまり、また告白されたいって事?」


「……ふぅ、戯言ばかりぬかしているつもりなら、オレは帰るぞ」


「そんな怒んないでよ、大丈夫、本心だから」


「じゃあな」


「わわ、待って待ってよ。ボ、ボクお腹空いたなー。ひもじいなー」


「……ふぅ、それじゃあ頼めるか?」


「勿論だとも、ボクに任せておきたまえよ」



もぅ、子供の頃はあんなにボクに懐いてくれてたのに、いつの間にこんなに擦れてしまったんだか。


やっぱり、両親が亡くなったのが切欠なのかな。

あれ以来、ボクに対して距離を取ってるみたいに感じるし。


そのせいか、化け物って言葉に対して過剰に反応してる。

今もまだ、仇を追っかけてるんだろうなぁ。



「――おい、オレの話を聞いてるか?」


「え? ゴメンゴメン、何だっけ?」


「オマエ、本当に聞くつもりはあるのか?」


「ホント、ゴメンってば。ちょっと考え事しちゃってただけで、聞くつもりはあるんだよ」


「……ふぅ、もう一度話せばいいのか?」


「うん、お願い。今度はちゃんと聞いてるから、ね?」


「分かった、では、最初から。被害者は全員男性、頭部が潰されている」


「潰されているって、具体的にはどんな感じに?」


「頭頂部を真下へ叩きつけた感じ、と言えば分かるか? 首のあった場所に、潰された頭部が、文字通り平らになっていた」


「それで頭部が、潰されてる、って表現な訳ね。被害者の年齢や身長は?」


「20代から30代だな。身長は推定170から187とある」


「推定って……あぁ、頭無いんだったね。そりゃ計れないか」


「だな。一応、当局の分析では、頭頂部へ均一に、且つ、垂直に圧力が加えられないと、そんな有様にはならないだろう、との事だ」


「そこそこ背の高い相手にそんなことするには、真上で待ち構えて、真下に来た相手に垂直ダイブしないと駄目かな?」


「とても現実的ではないな。均一な圧力にもならんだろう」


「だよねー、ボクも言っててそう思ったし」


「場所は――」


「……何それ、それじゃあ全員、同じ地域内って事? もしかして知り合い同士なの?」


「その線は濃厚だな。全員同じ学校出身らしい」


「住んでる場所で無差別って感じじゃなく、その人達を狙ってるっぽいね」


「確かにな。だが、そうなると動機が伺えるな。人間の仕業なのか? だが、手口が……」


「まぁ、そこはほら、ボクが見てくるから」


「……そうだな。その方が手っ取り早いか」


「とはいえ、何でもボクに頼むのは無しだからね? 人間ばっかりじゃ、ボクのお腹膨れないんだし」


「あぁ、分かっている」


「それならいいけど。じゃあ、見てみますかね」



現場を見に行く。

とはいっても、ボクが移動してる訳じゃないけど。


あくまでも、視界だけ飛んで行ってる感覚、かな。

いや、食べたり出来るんだし、幽体離脱みたいなものかも。


周りには無数の赤い靄。

こいつらは違う。


む、こいつかな。

でも、いつもと色が違うや。


そこには黒い靄。

ヤバい類の場合の色だ。


向こうもこちらに気が付いた。

ボクの視界が閉ざされる。



「――ヤバいかも」


「どうした?」


「こっちに干渉してきた。アレ、結構強いヤツかも」


「……それは、問題有りという事か?」


「まぁ、問題ではあるよね。こっち来ちゃったみたいだし」


「何だと?」



室内に黒い靄が現れる。

カレが騒がないところを見るに、カレには見えていないみたいだ。


ボクが負ける訳もないけど、ほっておくと、カレの身が危険だ。

カレはボクのモノだ。

誰にも渡してあげない。


ボクは瞼を開く。

眼球の無い、昏い虚で相手を捉える。


相手が動きを止める。

ボクの力から逃れようと藻掻いている。



「アハハハハッ、ツカマエタァ」



血に濡れたような三日月を顔に浮かべる。



「イタダキマス」



モグモグモグモグ。

いつものより、歯応えがある感じ。


ゴックン。



「ご馳走様でした」


「……どうなった? 終わったのか?」


「もう大丈夫だよ。ちゃんと食べておいたから」


「……この部屋に来ていたのか?」


「そうだよ。……もしかして、ボク以外の化け物に会いたかったの?」


「いや、そういう訳ではないが……」


「――違ったよ」


「何?」


「アレはキミの仇じゃない」


「オマエ、何を言ってるんだ」


「だから、安心しなよ」


「だから何を――」


「でも、もしキミの仇をボクが食べちゃったら、キミはボクの事、どうするつもりなんだろうね?」


「――――」


「フフフッ、冗談だよ、冗談。いつもみたいに、キミをからかっただけだよ」


「――――」


「ほら、そんなに怖い顔しないでよ。ボク、怯えてプルプル震えちゃうよぉ」


「……ふぅ、オマエの冗談はいつも笑えん」


「そう? それは残念だなぁ。残念残念」


「……オレはもう行く」


「そっか、じゃあ、またね」


「また、か」


「そうだよ、まだまだ終わらないさ」


「……そうだな。ではな」



去っていくカレの背中を、眼球の無い虚で見つめる。


少し、傷を抉り過ぎちゃったかも。

ボクの事より、仇の事を考えてる風だったから、ついやり過ぎちゃった。


まぁ、でも、またカレはここに来る。

好きだろうが嫌いだろうが、関係無しに。


仇かもしれない相手の元に。


フフフ。

フフフフフ。


本当に、可愛いなぁ、キミは。






ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『救世主は救わない』
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