空キ腹
この作品はフィクションです。
白い男視点です。
ホント、何もない部屋だなぁ。
暇も潰せやしない。
退屈退屈。
早く来ないかなー。
いっそのこと、こっちから出向いてみるのも、それはそれで面白そうだ。
でも、それをすると後々面倒臭い。
外は煩わしい事も多いし、今はまだ、大人しくしとこう。
ここの唯一の良い所は静かな事かなー。
まだかなーまだかなー。
そろそろ、お腹が空いて来たんだけどなー。
思えば、カレも随分と大きくなった。
最初に会った頃は、まだ少年ぐらいの見た目だったのに。
今では十分オッサンだ。
中々渋めのオッサンだ。
いつも不機嫌そうにしているのがマイナスだが、にこやかにしていたら、それはそれで気色悪いかもしれない。
出来れば、もっとお話ししていたいんだけどなー。
中々そうもいかないらしい。
そんなに引っ切り無しに来るようでは、外は物騒に過ぎるというものだ。
とはいえ、お腹が空いた。
早く来ないと、勝手に食べちゃうぞー。
願いが通じたのか、部屋に光が差す。
次いで聞こえる足音。
食事の時間だ。
今日のメニューは何だろうか。
「やぁ、しばらくぶりー」
「まだ生きていやがったのか」
「酷いなー、これでも結構お腹が空いてるんだよー」
「オマエが飢え死にする方が、世の中平和ってもんだろう」
「それは言い得て妙かもだけど、空腹は苦手かなー」
「……あんなモノでも、腹が満たされるのか?」
「アハハハッ、キミ達にとって見れば、ボクは差し詰め、霞を食べる仙人、かな?」
「……仙人も人外なら、あながち間違いではないかもな」
「おっと、そこは否定して欲しかったな。仙人さんに謝ってあげて」
「オレの知り合いには居ないから知らん」
「じゃあ、知り合いであるボクに謝って」
「意味が分からん」
「キミは、ボクに対する愛が足りないね」
「そりゃ、全く無いんだから、そうなるだろうな」
「なんと、キミはそんな薄情なヤツだったのかい?」
「オマエに情を抱いた覚えは無い」
「抱いてよー、悲しいじゃないかー」
「泣きもしないのにか?」
「まぁねー、確かに泣けないねー。ボク、眼球ないから涙腺もないしね」
「…………」
「おや? もしかして、ボクのこと気遣ってくれたりした?」
「黙れ」
「何だよーもっと構ってよー」
「……腹が空いてるんじゃなかったのか?」
「おっと、そうだったそうだった」
「……話すぞ?」
「あいあい、聞きましょう」
「被害者は全員女性、全身を細断されていた。被害者達の関連性は不明。容疑者は未だ特定されていない」
「死因は――まぁ、そのまんまだよね」
「あぁ、だが、被害者は皆、生きたまま解体されたらしい」
「おぉぅ、残酷。グロでスプラッタだね」
「被害者の年齢も様々で、下は10代から上は80代だ」
「守備範囲広すぎ」
「……探せるか?」
「やってはみるけど、それって人間の仕業じゃないの?」
「分からん、が、否定は出来ん」
「それ人間の仕業だったら、骨折り損のくたびれ儲けじゃない?」
「嫌なら別に構わん」
「おっと、待った待った。分かったってば、やってみるよ」
「現場は――」
「――はいはい、どれどれ、どこかなー」
目の無い視覚で相手を探す。
浮かび上がるのは、無数の赤い靄のようなモノ達。
どれもこれも曖昧な存在を前に、それらしい相手を探してゆく。
しばらく探してはみたものの、該当するモノは居ない。
「駄目だね、これ違うみたい」
「……では、人間の犯行ということか?」
「それはキミ達で調べてよ。ボクの与り知らない事なんだからさ」
「分かった、だが、そうなるとオマエの腹はどうする?」
「何か適当に食べておくよ」
「……それは許可出来ない」
「えぇー、そんな殺生な。ボク、お腹空いてるんだけど?」
「対象以外の捕食は認められていない」
「そんなのキミ達が勝手に決めたことだよね? ボクが従ってあげる義理はないと思うんだけど?」
「……規則だ」
「うへぇ、気分が悪くなる言葉だよねぇ、それ」
「オマエが好き勝手する事は許されない」
「――何それ? 何様のつもり?」
明かりが明滅する。
耳鳴りがする。
室内が振動する。
「よせ、止めろ」
「ボクに命令する気?」
「……頼む、止めてくれ」
「………………はぁ、もぅ、しょうがないなぁ。しょうがないから、後少しだけは待っててあげるよ」
「分かった、対象の報告がないが探してみよう」
「でも、なるべく早くね? あんまり我慢してあげられないよ?」
「……分かった、善処する」
「頑張るだけじゃ駄目だよ? 結果を出してくれなきゃ意味ないんだからね?」
「…………ああ」
「じゃあ、早く探してきてー。お腹減ったー」
「では、また改めて」
「なる早でー」
そうやって急かしたててやった。
まぁ、別に食べなくても死なないんだけどね。
でも、空腹は感じるんだから、面倒臭いったらありゃしない。
不便だなぁー。
好き放題出来た昔が懐かしい。
昔を懐かしんで、そして、少し悲しくなった。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。