白ト黒
この作品はフィクションです。
GW企画第二弾。
ホラー作品ではありません。
第一話のみ、三人称となっています。
本作のコンセプトは後書きに記載しておきます。
ドアの無い一室。
三方は壁、一方のみがガラス張りとなっている奇妙な作りの部屋。
室内には一切、物が置かれておらず、明かりさえも無い。
唯一の光源は、ガラス張りの向こう側の照明から漏れ入る光のみとなっている。
およそ何にも使えない、用途不明に思えるその一室に、人の姿があった。
上下ともに白の簡素な服装。
その肌も、服に負けず劣らずの白さを誇っている。
癖毛の髪もまた、ムラの無い白髪。
全身が白に染め上げられたような容姿の青年だった。
白の男が口を開く。
「やぁ、また会えるとは驚きだね。てっきり、死んだものと思っていたよ」
白の男は、何も映らないガラスに向かい、驚きの混じった愉快そうな声を掛ける。
「生憎と、死なない事に関してだけは定評があるもんでね」
と、それに答える声があった。
ガラスの向こう側に立つ人物。
短く切り揃えられた黒髪。
襟が立てられた黒いコート。
その下から覗く肌は浅黒い。
室内の人物とは対照的に、全身を黒で染め上げているかのような男性だった。
黒の男は、ガラスから見える白の男性に向かい、声を掛けていた。
しかし、室内にも室外にも音を通す設備は備わっていない。
音が伝わる筈の無いその空間で、しかし、両者はお互いにその事に疑問を抱く様子も無く独り言という会話を進める。
「へぇ、それは奇遇だね。それじゃあ、キミとボクは似た者同士、という訳だね」
「オレをオマエと同類にするな、化け物め」
「おやおや、つれない事を言ってくれるじゃないか。キミ達は、ボクを違うモノとして認識しているみたいだけど、ボクからすればキミ達こそが、違うモノなんだよ?」
「少数が弾圧されるのは、世の常だ」
「希少であることは、それだけで価値のある事では無いのかな?」
「突然変異って言葉を知ってるか?」
「それは違うよ。ボクはキミ達の突然変異じゃなく、ボクという唯一種なのさ」
「つまりは人外、化け物って事だろうが」
「それは見解の相違というやつだね。ボクからすればボクこそが人間で、キミ達は違うナニカでしかないのさ」
「ほぅ、オレ達こそが化け物だと?」
「お互い様って事さ。姿形が似ているからって、同じ種族とは限らないんじゃないかな? ひょっとすると、キミ達の中にはまだまだボクみたいなのが居るかもしれないよ?」
「オマエのような化け物が、何匹も居てたまるか」
「まぁ、ボクとしても、ボクの唯一性が損なわれるみたいで、いい気分はしないけどね」
「……戯言はもう沢山だ。さっさと要件を済ませるぞ」
「ボクにとっては、キミとの会話だけが、唯一の娯楽なんだよ? 少しは楽しませてくれてもいいんじゃないかな?」
「オレには関係の無い事だ」
「まったく、キミって奴は。長い付き合いだっていうのに、相変わらずだね」
「ほざけ。こっちはいい迷惑だ」
「初めて会った頃は、あんなに色々と会話してたのに、随分と擦れてしまったんだね」
「一体、何十年前の話をしてるんだ」
「ボクにとってはつい昨日の事みたいなものさ」
「…………ふぅ、いい加減黙れ」
「はいはい、そうイライラするもんじゃないよ。そんなんじゃ早死にしちゃうよ?」
「オレはさっさとくたばりたいぐらいだ」
「やれやれ、どうしてこんな風に育ってしまったのやら」
「気持ちの悪い台詞を吐くな。オマエが親でもあるまいに」
「キミこそ気持ちの悪い事を言わないでくれよ。ボクだってキミみたいな子供を持つのは御免だよ」
「ふん、下らん。……本題に入るぞ」
「分かったよ、それじゃあ、何があったか聞こうじゃないか」
親子程も年が離れたように見える二人。
だが、その奇妙な会話の内容からは、互いの年齢が逆転しているような印象を受ける。
黒の男はガラス越しに白の男を見る。
白の男は何も映らないガラス越しに黒の男と向き合っている。
室外からはガラス越しに室内が伺えるが、その逆は出来ない造りとなっている。
にも拘わらず、室内の男は、ガラス越しに外の男の方を向いていた。
何とも不可解な行動だった。
「被害者は全て女性。着衣に乱れは無く、外傷も一切無い」
「死因は?」
「……死因は、内臓の欠損による失血死だ」
「へぇ、外傷がないのに、内臓が抜き取られたみたいに聞こえるねぇ」
「被害者は既に七名にも及んでいる。被害者達の関連性も不明、職場や住所も異なっている。容疑者の目星も付いていない」
「……それで?」
「当局は、犯行は人間の仕業ではないと見なしている」
「じゃあ、やっちゃっていいってこと?」
「……オレ達の関知する事じゃない」
「ハハハッ、そんな嫌そうな顔しないでよ。それじゃあ、場所を教えてよ」
「現場は――」
「――成程、じゃあ見てみますか」
「…………」
「んー、どれかなぁ。ちなみに、中身の何処が無くなってたの?」
「……心臓だ」
「ワォ、それじゃあ死んじゃうのも無理ないよね。でも、一つ間違ってるよ?」
「何がだ?」
「心臓は、内臓じゃなくて臓器って呼ぶんだよ? 知らなかった?」
「……? どう違うんだ?」
「えぇー、そんなの自分で調べてよ。キミはボクと違って外に出られるんだからさ」
「…………それで、見つかったのか?」
「んー、心臓、心臓ねぇ。他人の心臓って、どういう時に必要になるんだろうね?」
「知らん。いいから早く探せ」
「さっき関知しないとか言ってなかったっけ?」
「揚げ足を取るな」
「はいはい、探してますよーっと、ミツケタ」
今まで閉じられていた瞼が開かれる。
そこにはある筈の眼球は存在しておらず、黒い闇に構造色の虹色が見て取れる。
顔に赤色の三日月が浮かび上がる。
口角を釣り上げていた。
「ジャア、イタダキマス」
次いで響くのは咀嚼音。
暫くすると、嚥下する音が聞こえた。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「……もう済んだのか?」
「さぁ? 他にも居るんなら、また被害者が出るんじゃない?」
「雑な仕事だな」
「別に仕事じゃないんですけど。キミ達が勝手に残飯処理を押し付けて来ただけじゃない」
「それがオマエの存在理由だろうが」
「そんなものが存在理由であってたまるかよ。勝手に決めつけないでくれる?」
「じゃあ、何でオマエは――」
「――いや、ご苦労だった」
「もう行っちゃうのー? また来てねー」
「……ふぅ、出来れば二度と御免だね」
「フフフッ、キミはいっつもそう言っては、また来てくれるんだよねー」
「黙れ、化け物。……もう行く」
「はいはい、じゃあまたねぇ。精々死なないように気を付けてねー」
黒の男はガラスを振り返る事無く、その場を歩き去って行く。
白の男は何時の間にか瞼を閉じ、黒の男の背に顔を向けている。
すぐに明かりは消え、闇に閉ざされた。
本作のコンセプトは、一部、あらすじと重複しますが、以下となります。
・舞台固定
・登場人物二名
・名前なし
・会話多め
作者としては『D○D』を意識したつもりでしたが、後から思えば『M○RS RED』のアニメ第一話っぽい感じの舞台になってました。
とはいえ、二次創作とかではありませんのであしからず。
ちなみに、どちらの作品も作者は大好きです!
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。