機械神の英断25
天津雅騎視点
天津雅騎視点
ぼくたちイザナギのメンバーたちは横浜に向かうべく、ヘリの中で移動中だった。
「……しっかし、あいつの目的はいったいなんなんたんだ?」
ヘリのタービン音が響くなか、葉介が話題を振っていく。
「わからんな。あの仮面男と戦ったのは、雅騎だけなんだろ?」
先輩が葉介に答えつつも、僕に質問する。
「はい。先日の銀行強盗殺人を追って、工場の中に入ったらあいつがいたんです。もう一人の共犯者の男はすでに殺されていました」
僕はあのときのことを思い出しながら、あとで聞いた話とあわせて報告した。
「銀行強盗って今の時代ありえるの?」
「わざわざ九十九が採用されていない場所を狙った犯行よ。ただ現金は無事だったようだから、そこは天津くんのおかげね」
ヒカルの質問にさらに海鳴が答える。
「でも銀行強盗のあとは空母を乗っ取って突撃してくるなんて、いったいなにが目的なんだろ?」
葉介の疑問はもっともだ。なんでそんな大胆なことばかりして目立とうとしているんだ?
まるでぼくたち『イザナギ』みたいじゃあないか。
「わからないわ。でも海上自衛隊がマイクを使って警告を続けているそうなんですけど、あのラーフという男が抵抗して空母を止めれないそうよ」
「…………じゃあ、あいつを捕まえれば空母を止めることができるのか?」
「ええ。そうすればあの男の真の目的もわかるとおもうわ。おそらくただのサイコパスだとおもうけれどね」
するとヘリは目的の空母へと近づいてきた。
「……みえてきた。……なんだあれはっ⁉」
僕たちが空母に搭載された兵器の数に驚く。
「な、なんであんなにも戦車だとかヘリとかあるのよっ⁉」
さきほどまでとおなじようにヒカルは海鳴が答えてくれると思っていたが、海鳴にも7わからないようだった。
「……詳しいことはわからないわ。でもあんなにも多くの兵器が地上に激突したら、大変なことになるわ」
と待機用の椅子から立ち上がって全員に一喝する。
「みんな出撃よっ‼ ラーフブラックを捕まえて敵の軍事兵器をすべて無力化して」
「りょーかい」
「まかせて」
「任されよう」
「おっしゃ! それじゃあいっちょ行きますか!」
海鳴の一喝にメンバー全員の闘志が燃え上がった。
天津雅騎視点
地上に降り立った僕たちはまず空母の甲板を見渡してラーフがいないか確認する。
「……おい、この空母かなりおかしいぜ……」
ラーフのことばかり気にしていたぼくとは違い、葉介はなにかに気づいた。
「なにがおかしいんだ?」
「あの空母、中にはかなりの爆薬と燃料……そして戦車が積まれている。おかしいのは戦闘機だ。まるで飛ばすことを考えずに操縦席に爆薬を載せている。『まるで爆破させてくれ』っアピールしているようなもんだ」
「戦車? 空母にそんなもの積むの?」
「ふつうは積まないわ。つまり
「わからないわ。でもそんな危険物が大量に積んである空母を外部からミサイルや天津君の能力で無理矢理止めると、誘爆をおこして更なる大災害につながる可能性があるわ」
「あいついたわよっ⁉ ……あれ? なんだかでかくないか?」
ヒカルがラーフを見つけたらしく、大声で知らせるが……違う。
「……そ、そんな……どうしておまえがこんなところに……」
その姿をみて僕は恐怖と憎悪で言葉を失う。
「どうしたんだ雅騎?」
心配する葉介に僕はなんとか、声をひりだした。
「……あれはロキだ」
「え?」
僕のつぶやくような答えに葉介は思わず聞き返した。
「中学のとき、俺の義理の父さんを殺した怪物なんだ」
「……嘘だろ? お前の勘違いじゃあないのか? あの事件の資料は俺も見させてもらったけれど、実際のものとはだいぶ違うように見えるぜ」
「……そのとおり、偽物だよ」
ロキはいきなり喋りだした。そして次の瞬間、彼の身体はまるで餅を膨らましたもの動画を逆再生したかのような形でしぼんでいく。
「な、なんなんだ?」
桐生先輩もうろたえながら、必死にガンブレードを構えて警戒する。
「おまえ、変身できるのか⁉」
葉介は相手の変身を見破ったように大声で問いただすが、実際は違った。
「残念だが、それだけじゃないぜ」
そしてロキだったものは先日あった仮面の男、ラーフブラックへと変化する。
「……フフフ。よくきたなスーパーヒーロー天津雅騎と『不』愉快な仲間たちよ」
「だれが『不』愉快な仲間たちよ。この化け物」
」ヒカルが小さいボケに対応するようにつっこみを入れるがそれどころじゃあない。
「ラーフ。その姿はいったいなんのつもりだ。お前がロキなのか?」
「ただのおまえへのサービスさ」
そして彼は腰にあるペン状のような何かを抜き取った。
「……悪役らしく、聞いてやるよ。真実を知りたきゃ。俺を倒してみな」
ラーフがペン状のものを剣の形に変えながら、僕を挑発してくる。
いや、僕『たち』を挑発していたのだ。
「よくそんな大見得切って俺たちに喧嘩売れるな」
葉介肩に下げていた自動小銃をラーフへ向けた。
「そうよっ‼ 負けないんだから‼」
ヒカルはヤクモ越しにそう啖呵を切る。
「私たちはあわせて四人だこの人数で勝てるとおもっているのか?」
そして桐生先輩もガンブレードを起動させてラーフへと向けた。
「おおっと。あまいあまい♪ ひとりは味方にさせてもらうぜ♪」
ラーフは楽しそうな声をあげてヤクモに剣を向ける。
「な、なにっ⁉……きゅうにコントロールが……」
ヤクモが小刻みに震えだし、ボディのあちこちで機械的な電子音が鳴りだした。
「みんなっ⁉ ヤクモから離れろっ‼」
葉介の指示で全員がヤクモから離れる。
「ヒカルっ⁉ 大丈夫なのっ⁉」
ヤクモの震えはとまり、機能は停止した。
「もしかして、このまえの暴走事故もおまえの仕業かっ⁉」
先輩がラーフを睨みながら責める。
「あれは違う。だけどこのまえの暴走を参考にさせてもらったんだ」
しかしラーフはあっさりと否定にもつかない言葉で返した。
「ラーフ。……おまえだけは絶対にゆるさないっ‼」
僕はすぐさまラーフに向かって走り出したが、横から強烈な衝撃に押し出された。
「――がっ……ちくしょう……」
衝撃の原因を探ると、そこには戦車が砲身から弾を打ち出していた。
「戦車が動きだしたっ⁉ いやそれだけじゃあなくて、べつの兵器も動いてるっ⁉」
「さぁて。楽しもうぜヒーロー」
ラーフの言葉とともに、ヘリは飛び立ち、戦車は迫ってくる。
「くそっ⁉」
葉介がヘリにむかって自動小銃を振り回すが、火力の低い武器では傷もつかない。
「桐生先輩、上空のヘリを撃墜してくれっ‼ 雅騎は戦車を止めてくれ」
「葉介はどうするんだっ⁉」
戦車に向かうまえに葉介に振り返った。
「俺はこの仮面男を逃がさないように引き付けておく」
そして葉介はコンバットナイフを取り出してラーフへ飛び掛かった。
「いくぜ、仮面やろうっ‼」
ラーフはそのナイフを難なく受け止めて、葉介に聞いてくる。
「……やるじゃないかお洒落ボーイ。……お前も忍者か?」
「ふつうに人気者だよっ‼」
剣とナイフのつば競り合いを続けながら二人はそんな冗談の言いあいをしている。
「余所見するな天津っ‼」
桐生先輩の注意に我に返り、そのまま僕は戦車へと向かった。
「うおおおおぉっ‼」
気力を発しながら、僕は戦車を前方から、引き留める。
「ぐっ……お、おもい……」
戦車はおもったよりも馬力が強く、思わず弱みが出てしまう。
「ガンブレード、シュートッ‼」
ガンブレードの先から粒子が発射され、その粒子がヘリに命中した。ヘリは内部の燃料の誘爆も含めて墜落していく。残りのヘリは二台。戦車は三台だ。
「さすが先輩だ。僕も負けていられないなうおおおぉぉぉぉっ‼」
僕も腕に力を込めて戦車の勢いを押し返し戦車を三台とも外まで押し出した。
僕の活躍を見ていた桐生先輩。
「よし、このまま残りのヘリを――ぐっ」
しかし背後からなにかが背中にぶつかって、前のめりに倒れてしまう。葉介だ。
「――すっ、すまねぇ先輩。やられちまった」
葉介の義手は二の腕部分からもぎ取られたように、破壊されていた。
「……ヒーロー。前回のリベンジだ。かかってきな」
ラーフは葉介を倒したことで気がのったのか、剣を振り回して挑発してくる。
「ラーフ。おまえは絶対にゆるさないっ‼」
僕はラーフ目がけて、こぶしを突きだしたが。
「あまいぜ」
ラーフは持っている剣が急に膨らんでいく。
「なんだっ⁉」
目の前の景色が急に覆い隠されてしまった。前が見えない。
「もらったっ‼」
そして塞がれた視界の死角から、ラーフはキックを入れてくる。
「ぐっ⁉」
そのキックが自分の腹部に軽くめり込んだ。
「あぅ……」
「……はじめて、攻撃がきまったな。こっから巻き返すぜ」
腹部を左手で抑えながら、僕は息を整える。
「僕は……まけるわけにはいかない……」
そんな僕にラーフは突然突拍子もない質問をしてくる。
「……なんのために?」
彼のその問いかけのこたえは決まっている。
「みんなを守りたいからにきまっているだろうがっ‼」
僕が怒りを込めた右ストレートを彼は二つの剣で腕を挟んで止める。
「……なぁヒーロー。正しいことってなんなんだ?」
なおもラーフはそんな無意味な質問をしてくる。答えなんて決まっている。
「人を傷つけたり、間違ったことをしないことだ」
左足でローキックをしようとするが命中する前に剣の拘束を止めてバックステップでかわした。
そしていきなり。
「ふっふっ、ふひゃひゃひゃ――あーはっはっはっ♪」
いきなり笑い出した。まるで夢の中のロキのような人の死や悲しみを嘲笑っているかのような下品でわざとらしい笑い声だった。
「……何がおかしい」
夢の中とおなじように僕の怒りと憎しみはさらに増していく。
「……いやなに。お前のことが単純で羨ましいなと思っただけさ」
「おまえはなにが言いたいんだよっ⁉」
僕は怒りを抑えられず、そのまま距離をとったままラーフに怒鳴った。
「警告しておくぜヒーロー。このままいけば、お前は沢山の人間を殺す悪党になる」
「何を言っているんだおまえはっ⁉ 僕がたくさんの人間を殺すだって? いいかげんにしろ。僕はみんなを守るスーパーヒーローだ。そんなことにはならないっ⁉」
冷静に淡々とわけのわからないことを言うその言い方に僕の口調はさらに荒くなる。
「お前はなにも疑わないのか? ヒーローとはなにか。イザナギとはなにか。おまえはなにもわかっていない。父親を殺したロキという存在のことも、何もわかっていないんだ」
父親を殺したロキ。やはりこいつは何か知っている。
「おまえやっぱりロキについてなにか知ってるんだなっ⁉ 言え‼ お義父さんを殺したロキとはいったいなんなんだ?」
「……言えないさ。おまえには真実を知る権利がない」
その言葉で完全に僕の中で怒りのリミッターが振り切れた。つまりキレた。
「いいからおしえろラーフっ‼」
体中の血液が沸騰していく。自分の中の激情を抑えれない。そんな感覚とともに僕の身体に異常が起きた。
「……あ、天津……」
いつのまにか僕のまわりに漂う波動がいつもよりも濃くなっていく。先輩が僕の姿を見て驚いている様子だったが、気にする余裕はない。
「ラーーーーーーーフーーーーーーッ」
僕は目の前のこの男に今身体中に巡っているありったけの力をぶつける。
「……ヒーロー。お前は何もわかっていない……」
ラーフは防御することなく、そのまま僕の拳はラーフの腹部に響き渡った。
完全に攻撃が決まったラーフは仰向けで大の字に寝そべっていた。
「おまえの目的はいったいなんなんだっ⁉」
「………………………………………………」
ところがラーフは何もこたえない。もしかしたら死んでしまったのかもしれない。
不意にそう思ったとき、僕はさきほどと違って冷静になり、急いで彼の安否を確かめることにした。
「……仮面の下はどうなって……そんなっ⁉」
おそろおそるラーフの仮面を外すと、むき出しの機械の導線やチップが埋め込まれているだけだった。
「に、偽物っ⁉ じゃあ本物はいったいどこにいるんだ……? うわっ」
あたりをきょろきょろ見渡すと、不意に空母が大きく揺れ動き、思わずバランスが崩れてしまう。
「油断するな雅騎っ⁉」
僕は急いで声がするほうへ向くと葉介が苦しそうに息を吐いていた。
「葉介。こいつは偽物だ。本物はまだどこかにいるっ⁉」
「よくみろ‼ そいつは偽物の振りをしているだけだ」
「なん、なんだって⁉」
僕は葉介から再びラーフのほうへと戻した。
「い、いないっ⁉」
そこには倒したはずの顔が機械の偽物はもういなかった。
「ちっ。バレちまったか」
声のしたほうに向き直るとそこには顔が機械のままもラーフがいた。
「ラーフ‼ お前はいったいなにものなんだっ⁉」
「おれに『正体』はない」
するとラーフの顔面が機械から人の形になる。その顔は……僕?
「……なっ⁉ ど、どうやってっ⁉」
ラーフは僕の顔のまま、僕の声で答えた。
「俺は姿を自由に変えることができるんだよ。はじめておまえと出会ったあの工場でも俺は姿を変えて記者の中に潜り込んだ。『魔獣ロキ』のはなしも今生存している目撃者の話で再現してやっただけだ。すこし形がデカかったみたいだがな」
「……どうしてそんなことをするんだ?」
さっきから質問ばかりしている気がするがそれでも僕がこいつに聞き続けるのはこいつがなにひとつ質問に答えてくれないからだ。
「言っただろ。おまえに真実を知る権利はないって。真実を知るには疑わなければいけない。いま自分自身に与えられたヒーローという役を疑うことなく演じるお前に舞台の真意はわからない。ずっとこの社会で道化として役者としてヒーローをこなすおまえには永遠にわからないだろうな」
舞台? 演劇のことか。なんて遠回しな言い方なんだ。
「いいかげんにその遠回しな言い方はやめろっ⁉ おまえがロキなのかっ⁉」
「その質問にだけはこたえてやる。『違う』俺は魔獣ロキじゃない。ラーフだ」
「……違うのか」
その言葉を聞いて複雑なきもちになる。この男じゃあないとすれば、いったい魔獣ロキとはいったいなんなんだ?
「……ほらまた疑わない。そんなことじゃあこれから起きるあの事件よりももっとふさわしい災害は止められないぜ」
「もっと恐ろしい災害?」
「……それは俺にもわからない」
そしてラーフは海へとび降りる姿勢になる。
「待てラーフ」
急いでラーフを捕まえようとしたかったが、この距離では間に合わない、
「じゃあなヒーロー。おまえがこの国でどうあがいていくのかをせいぜい見届けさせてくれ」
天津雅騎視点
あのあと。ラーフが逃げ帰った空母はあっけなく停止させられそのあとの事後処理と報道は自衛隊のほうでやるそうなので僕たちはヘリに乗ってひとまず今日泊まる予定のホテルへと向かうことにした。
「けっきょく、あの仮面の男はいったい何が目的だったんだ?」
帰りのヘリの中で先輩がそんな疑問を誰にともなく投げかける。
「空母まで用意してあれだけ派手に動画を流したのに、あっけなく逃げちゃったわね」
「たしかにそうね。でもあの男の調査はまた別の機関がやってくれるはずだから、とりあえず今日はホテルで休みましょ。明日は学校も休みだと事前に連絡しておくわ」
先輩の疑問に海鳴は深く考えず休息をすすめてきた。
「そうだな。今日のはかなり骨が折れたぜ」
そのすすめに葉介も乗っかり、先輩も短い息をついて無言で答えた。
「そうよ。被害も最小限で済んでよかったじゃない」
「ええそうね。今回の件で世間へのイザナギの評価が一気に上がるわ」
全員が口々にそんな話をするなか、僕はずっとうつむいていた。
「…………そうだね」
僕は誰にも目を向けず短く答えた。
「どうしたのよ雅騎。つかれたの?」
そんな僕にヒカルが顔をのぞき込むようにしながらやさしく心配してくれた。
「……だいじょうぶ。……あいつが言っていたことがけっきょく今回もわからなかったから、すこしきになって考えてただけだよ」
『……ほらまた疑わない。そんなことじゃあこれから起きるあの事件よりももっとふさわしい災害は止められないぜ』
恐ろしい災害っていったいなんなんだ?
「天津くん。考えても仕方がないわ。あいつは私たちが追わなくてもじきに現れるはずよ」
「そうだぜ。もしかしたら義理の親父さんの仇は、あいつかもしれないしあいつじゃあないのかもしれない」
「ああ。その答えを聞き出すなら、今度はあいつを捕まえて強制的に吐かせればいいだけの話だ」
「そうよ。そのときはイザナギみんなで協力して捕まえましょ」
僕は顔を上げて仲間たちの顔を見た。
海鳴もヒカルも葉介も桐生先輩もみんな僕のことを温かく見つめ、心配して元気づけてくれていた。
「……そうだね。今度は必ずあの男を捕まえよう」
ぼくには仲間がいる。僕たちはみんなでイザナギだ。
仲間がいれば、ラーフであろうとこれからさき恐ろしいことがおきようとしても、なにもおそれることはない。
僕は天津雅騎。みんなを守るスーパーヒーローだ。




